酒は世につれ、世は酒につれ〜私の酒歴書


  第2話 酒は残っても女は消える   

夕刊フジ 平成9年9月11日掲載



 ロレスラーは、日本全国はもちろん世界各国を旅してまわるのが仕事のようなもの。トレーニングをし、試合で汗を流した後に待っているのはおいしいビール。私はとりわけ、この試合後の生ジョッキのために日頃のトレーニングに耐えているようなものだ。

 さて、酒の席に女の子の話はつきもの。私も昨年来、週刊現代の「私を抱いた有名人」シリーズでサッポロの昔の彼女に禁断の一夜をチクられてしまい、女房に「このエロスキャンダルおやじめ!」と白い目で見られるという悲しい(そして笑える)体験をした身である。であるが、男たる者、そんなエピソートのひとつやふたつなくて、何が豊かな人生ぞ!と私は主張したい。

 そんなこりない男・馳浩の、とっておきの「広島事件」を紹介しよう。

 ちなみにこれは独身時代のことなので、今では時効であるとことわっておきたい。

 プロレス好きのスポンサーというありがたい社長と、そのとりまきホステス、社長の一人娘とわれらがレスラー軍団A、B、Cが試合後にクラブに行ったときのこと。

 社長のおごりということで、日頃のお礼と感謝を込めて大いにヨイショしまくる馳浩。ヨイショとともに、グラスを重ねるピッチも女の子を口説くボルテージも上がりまくり、もう何でもあり状態。最初はホステスに狙いをつけたのであるが、どうも話しているうちに、そのホステスは社長が目をつけているということにピンと来た私は、方向転換して社長の大事な目にも入れても痛くないと公言している一人娘を口説きに入る。

 試合観戦でプロレスに酔い、すすめられるままに飲むブランデーに酔い、ついでにマシンガンのように「かわいいね」「笑顔がすてき」とほめまくる馳浩の口に酔い、すでに正常な判断のできないほどイイ気分の一人娘。

 出来上がった頃合いを見計らって作戦開始。まずホステスとレスラーA、B、Cを社長にホテルまで送らせ、その後30分ほど時間差で一人娘をホテルに誘い込むという高等戦術だ。

 首尾よく社長一行を追い出し、目の潤んできた一人娘もしなだれかかってきたことだし、タクシーに乗っける。

 タクシーの後部座席で、そっと手を握ると、おお、力強く握り返してくるやんけ。ならばと指と指をからませようとすると、これまたじっとり汗ばんだ手のひらを押しつけて握り返してくるやないの。

 これってやっぱし「オッケー」だよね、と自分に言い聞かせながらホテルに到着。運転手に「釣りはいらねーよ」と鼻息荒く手に手を取ってロビーに降り立つと、ガビーン!なななんと、目の前に社長がすんごい形相で腕組みしてわしらをにらみつけとるやないの。どーして?何でこーな・る・のぉ。

 結局、私のたくらみはツメが甘くて失敗し、夢のような一夜も、会社にとって大切なスポンサーも両方失ってしまったというわけ。

 酒は残っても女は消える.....by 馳浩。




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