大牟田・「自動車裁判」勝訴の大きな成果
「車を運転したという理由だけでなぜ生活保護を廃止されるのか」「問答無用と、情けようしゃなく保護を廃止した福祉事務所が許せない」とたたかってきた、福岡県・大牟田の増永訴訟・自動車裁判が勝訴(3面に関連記事)。
この勝利が、今大きな力となって、またひとつ私たちの要求が実現しました。福岡県生活と健康を守る会・春日支部の角田 清さんから、とてもうれしいニュースが届きました。
板金の仕事もなくなって
山本文雄さん(仮名 ・61歳)は、中学卒業以来40年間「建設板金」の仕事をつづけてきた、職人気質のまじめな人です。しかし、このごろは機械化がすすんで仕事がへりつづけ、咋年12月以降は不況の影響で、仕事はまったくなくなりました。
やむなく派遣会社に登録、月のうち半分くらい日雇い(日給7500円)をして、親子3人の生活をつないできました。しかし、右耳がまったく聞こえずしかも高齢の山本さんに、4月以降、仕事もこなくなりました。
途方にくれた山本さんは生健会に相談、4月26日に生活保護を申請して、やっとくらしのメドがたちました。
そうした山本さんに「経験が生かせる会社がアルバイトを探している」と声がかかり、6月23日にその会社で面接。「高齢・難聴でも可。日給は⊥万円。工場・建設現場で8時間労働」山本さんにとっては願ってもない仕事でした。
でも、困った問遁がありました。現場に直接むかう勤務のため、車による通勤が採用の条件でした。
そこで山本さんは、福祉事務所にたいして「@交通機関を利用した通勤では2時間半かかり、勤務時間に間に合わないこと、A長くつとめられる職場で、8月以降は自立可能であることなどの事情から、自立できるまで車の使用を認めてほしい」と要請しました。
しかし福祉事務所の回答は、「車の使用は原則として認められない。明日から働くからすぐ認めろと言われても困る。県との協議があるから一週間かかる。 通勤のために時間がかかり勤務時間に間に合わないから働けないと言うのなら、他の仕事をさがすべきだ」というもの。これは、山本さんの自立意欲に水をかける内容でした。
春日市の対応に疑問をもった支部長(私)は、県の生活保護課にたいし、「短期間使用を認めれば自立が可能な場合でも、車の使用は認められないのか。
福祉事務所の自主的な判断と裁量にまかせられてはいないのか」と抗議しました。
翌別日の夜、福祉事務所の職員が山本さんを訪問。山本さんは、往復5時間あまりの通勤でくたくたに疲れていましたが、「バス、電車をのりつぎ、最後は35分歩いて、工場についたのは9時20分。
今日は言われるとおりにしたが明日はごめんだ。車がダメならもう生活保護はいらん。勤務時間に遅れるなんて、職人の誇りが許さんとです」と率直な気持ちを話しました。
福祉事務所は生活保護の受給者の立場から実態を把握する姿勢が足りなかったことを陳謝。そして車の使用も認められました。
私たち春日支部では、今回、車の使用が認められたのは、「自動車裁判」の勝利が、保護行政に大きな影響をおよぼしていると考えています。裁判の意義と成果をあらためて痛感しているところです。
(角田 清さん)
増永訴訟・自動車裁判とは……
福岡県の大牟田市で、生活保護を受けていた増永三代子さんが、93年10月1日、病気の娘さんを見舞うため実弟の自動車を借りて運転。走行中にケースワーカーに呼び止められ、「自動車の所有、借用、運転を禁じた文書指示違反」を理由に生活保護を廃止されました。これを不服として、福祉事務所にたいし「生活保護廃止決定処分の取り消し」を求めて提訴していた裁判。
今年5月26日、福岡地裁は「被告が原告に対し、最も重大な保護廃止処分を行ったことは裁量の範囲を逸脱したものというべきであって、本件処分は違法な処分」として原告勝訴を言い渡しました。
また自動車の保有についても、「通勤のための公共交通機関を利用することが著しく不便な場合、自動車の価格が安いことなどの要件をみたしているときは保有の要件を緩和して解釈・運用する必要かある」との判断が示されました。