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「生活保護−資料001−」

自治体問題研究所 編集   自治体研究所 発行 「住民と自治」2000/12月号P34から 生活保護制度が重みを増している  −福祉現場からの考察− 東京・日野市不況の影響によるリストラ・倒産、高齢、疾病・障害・・・・・、現代はさ まざまな理由から生活保護受給こ至る人たちが増えている。 「貧困化政策」が強調されるいま、支出削減の圧力にも対抗してがんばっている現場のケ ースワーカーを勇気づける取り組みに期待したい。 生活保護ケースワーカー     渡辺 信雄 51歳 1974年、日野市入職。日野市生活福祉課 92年から生活保護ケースワーカー。  東京都日野市における生活保護受給 世帯は、バブル経済の崩壊後数年間の 「助走期間」を経て一九九六年度から は文字通り「うなぎのぼり」の激増を 続けている。この中で私たちケース ワーカーは、年間約七〇〇件の相談と 一八〇件の新規開始ケースの調査・記 録作成を八人で分け合いながら、一人 平均九〇件以上のケースを担当すると いう「超ハード」な毎日を過ごしてい る (数字は九九年度)。  いま未曾有の不況のもとで、年金や 医療保険制度をはじめさまざまな福祉 施策が大きく後退し、生活保護制度が 国民生活を支える最後の拠り所として かつてない重みを持ってきている状況 に対して、福祉事務所のケースワー カーの立場から考えてみたい。  社会保障制度の後退が     保護世帯増を招く  生活保護のケースワーカーとして、 日々の相談援助活動に当たっていて、 年金などの所得保障のレベルの低さと 医療負担の重さ、そして不況の深刻さ とを本当に痛感させられている。  国民年金のレベルは、生活保護の最 低基準にも遠く及ばず、年金暮らしの 高齢者にとっては日々の暮らしや住宅 費などで蓄えが減っていくのを計りな がらの毎日とならざるを得ない。最近 のように、入院時の食事代が保険の対 象からはずされて一日七六〇円、老人 医療制度の改悪で一日一〇五〇円と自 己負担がどんどん引き上げられ、差額 ベッドやオムツ代、洗潅代などの費用、 老人病院での「お世話料」、レンタル料 など合計二〇万円を超す保険外の費用 は相変わらずという状況が変わらない 中では、いったん病を得たら蓄えがな くなるのは時間の問題。  結局、生活保護に至るかどうかは、 それまでの蓄えがどれだけあるかにか かっており、充分な蓄えをするゆとり がなかったり、倒産などを経ていった ん資産を失ったりという人生を送って きた場合には保護受給せざるを得ない ケースが相次いでいる。  また、不況の影響は相当に広がって おり、日雇い・パートなどの不安定雇 用で働いてきた人たちばかりか、市内 で長く自営業を営んできた人たちの中 でも保護受給者が出てきている。その 職業も、豆腐屋、クリーニング屋、酒 屋、菓子屋から大工の棟梁、塗装業、 足場大工、電気工事、建築設計など実 に多岐にわたっている。  最近の保護の動向を世帯類型区分ご とに見ると、九五年から九九年までに、 高齢世帯と障害・疾病世帯は依然とし て高い比率を維持しながら毎年着実に 増え続けている一方、母子世帯と「そ の他の世帯」(稼働年齢の失業者など) はいずれも倍以上に増えている。  これは、高齢化や傷病・障害によっ て稼働能力を失った場合に、年金など の社会保障政策によって暮らしを支え ることができず、生活保護制度を利用 せざるを得ないという現状を示してい る。また、バブル経済の崩壊後の激し い不況によって、いったん仕事をやめ て家庭に入った女性や、リストラ・倒 産などで仕事を失った中高年などの就 労がむつかしく、保護受給をせざるを 得ないケースが増えていることをも示 している。  ここには現在の社会状況や、社会政 策のありかたがおのずから保護受給世 帯を増やしているという事実がはっき りと現れている。 「適正化指導」で     圧力かける厚生省  この状況の中で今年、当市に厚生省 監査が入った。私たちケースワーカー は、現在の保護世帯の激増に対して厚 生省がどんな対策を持っているかを一 番の関心事としてこの監査に臨んだ。  最近の社会事業法「改正」で生活保 護現業員の配置基準が緩和されたこと は、今大きな問題をはらんでいる。例 えば、日野市の保護世帯は九月末では 約七八〇世帯になっており、以前なら 「ワーカー一人当たり八〇ケース以 内」の基準に沿って一〇名の配置がさ れるべきところだが、実際には九名に とどまっている。最初に書いたように、 新規開始ケースや相談などの業務がど んどん増えていることの負担は大変大 きく、その中で平均九〇近いケースを 担当していくことは実際上不可能に近 い。  監査の最終日、全体の講評の中でこ のことを訴え、厚生省の考えを質した が、「随時職員の配置」などを例示する だけで明確なものはなかった。逆に、 新規開始時の扶養調整や稼働能力など を徹底することが厳しく指摘された。 特に扶養調査については、申請者の状 況に応じて実施するかどうかを決めて きたことに対して、「ワーカーの判断で 行わないものが見られる」とこれを問 題視し、扶養義務者への訪問調査の必 要性が指摘された。  これに対して、無理な扶養調査は申 請者との関係を損ない、保護の円滑実 施の障害となることや、いかに扶養義 務者とはいえ、保護受給者ではない者 に対する資産・収入調査をいかなる権 限で行うのかなどの質問も行ったが、 いずれに対しても明確な回答はなかっ た。結果的には、厚生省は福祉事務所 が直面している問題には答えず、か えつて「適正化」のための事務を増や すことを指摘する姿勢だった。 福祉事務所は人権の砦     −重み増す保護制度  この監査の後、特に厳しく指摘され た扶養調査に関する対応策を協議する ケースワーカーの会議はかつてなく厳 しく激しいものだった。  それは、ケースワーカーとして誰も が、「親・兄弟に保護のことを知られ、お 金を送ってくれと頼むくらいなら保護 は受けません」と言う相談者と出会い、 人としてプライドを持っていたいとい う気持ちを理解してきたからこそ、簡 単に厚生省の指示に従うことはできな いからに他ならない。  結果的にこうしたプライドを踏みに じるようなやり方は自立に向けたカを 削ぐものだということを認め合う方向 で結論付けはしたが、そこに至るまで には、近隣市のうちで例外なく扶養調 査を行っている所では、そのために保 護を受けないという人もおり、そのこ とが「自立のための最後のバネ」と積 極的に評価されていることまで話し合 われたほどだった。  私たちは、この話し合いを通じてい かに保護受給世帯が激増しているから と言って、いわゆる「水際作戦」で保 護申請を妨げたり、要保護状態にある ものに最低基準以下の生活を強いるよ うなことのない当たり前のことを続け ていくことの大切さを再確認すること ができたのではないかと思う。  いま、介護保険制度の創設を皮切り にして、障害者福祉や児童福祉など多 くの分野で公的な責任による福祉から 「買うサービス」への転換が図られて いる。その中で生活保護制度だけはそ うした角度からの制度変更の対象とな らず、憲法に基づいて国民の生存権を 保障する「国の義務・国民の権利」と して万金の重みを持ちつつある。  また、先述したように、年金額などの 所得保障が極めて貧弱であること、医 療保険制度の改悪や消費税などで国民 の負担を強める政策が、強行されるな ど、国民のわずかばかりの蓄えを吐き 出させるいわば「貧困化政策」が進み つつある中で、生活保護制度は国民の 生活を支える最後の拠り所として極め て大きな役割を果たすようになりつつ ある。  いま、全国のケースワーカーはこの 重大な状況をうすうす理解し、たじろ ぎながら、厚生省からは「適正化実施」 の圧力を受け、自治体からは財政危横 の中で支出削減の圧力を受け、やりに くさを感じながら仕事に取り組んでい るのではないか。  私は、この中で、ケースワーカーを 勇気づける仕組みが必要になっている と感じている。自治体問題研究所が全 国の心あるケースワーカーに呼びかけ て、連絡組織のようなものを立ちあげ てくれることを期待したい。  これまで足掛け九年間の経験の中 で、自治体職員の使命感やケースワー カーとしてやっていこうという新鮮な 気持ちでスタートしながら、半年・一 年と月日が過ぎるうち、仕事の忙しさ と厳しさからみずみずしい感性を失 い、自己防衛的になってカを発揮しき れないような事例をも見てくる中で、 その必要性を強く感じている。 低所得者施策の課題  最後に、生活保護など低所得者福祉 の課題としていくつかを挙げておきた  第一に、いわゆる「ボーダー層」へ の援助施策の充実。  厚生省は今年四月の介護保険制度の 創設にあわせ、介護保険の負担のため に要保護状態になるいわゆる「ボー ダー層」について、福祉事務所の証明 があれば保険料などの負担を軽減する 制度を新たにつくつた。国にどんな意 図があるかは別にして、長い間その必 要性が言われて来たことが、まがりな がらも新たに作られたことを注目した い。同じ立場から、医療費や住宅費の 負担を軽減する制度をつくることが必 要ではないだろうか。  第二に、福祉事務所の相談援助横能 の向上。  いま、福祉事務所はたんに経済的な 困窮にとどまらず、病気やけが、複雑 な家族関係その他多くの問題がからみ あった相談が多く寄せられている。こ れに対して、相談者の悩み・苦しみを 受け止め、その前進的解決のために有 効な制度を知らせ、落ち込んでいる気 持ちを励ます福祉事務所の役割は大き  第三に、ケースワーカーの資質の向 上。  不幸中の幸いと言うか、現下の状況 は真に福祉と言いうるのは生活保護だ けという方向に進んでおり、地方自治 体で福祉を志す職員を確保できる可能 性も広がっている。この状況を積壌的 に生かすことと合わせ、ケースワー カーの資質を向上させることが求めら れている。  生活困窮の中で見通しを失い、混乱 と意気阻喪の状況に落ち込んでいた人 が、最低レベルとは言え生活が安定す る中で、気持ちの落ちつきと社会制度 への信頼を取り戻し、自力で新たな一 歩を踏み出す姿を見られることは、生 活保護のケースワーカーの最高の喜び ではないか。  生活保護をめぐるかつてない状況の 中で、福祉事務所が住民生活の最後の 拠り所として機能を発揮するために、 全国のケースワーカーが奮闘さ れることを期待したい。



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