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'07/04 金沢市生活保護、「特別控除」「未成年者控除」未実施について_根拠についての検討 「 戻る 」
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'0704金沢市生活保護、「特別控除」「未成年者控除」未実施についての法的根拠についての検討
金沢生健会 広田敏雄
法的根拠を考える前に、実施要領について一言検討しておく
生活保護手帳として編集されている実施要領であるが、そのもととなっているものはこれから紹介していく、通知・通達、そして運用をめぐっての疑義解釈の例示である
生活保護法には詳細な運用方法については「厚生労働大臣が設定する」とされており、この実施要領が実際の現場ではその細部にわたり判断する基準となっている
したがって、この内容が各福祉事務所で解釈が違うということでは、実施要領の意味が無くそのためにその解釈を確立するために問答集などで補足しているものである
今回金沢市が言うように、各福祉事務所でその解釈は違うなどと言うことは起こり得ることでなく、全国統一でされるからこそ、監査もその内容で行われ、さらにその内容に違反した場合は、生活保護法63条にもとづき受給者に法的根拠として返還命令を出しているものである
さらに、このような解釈が成り立つのであれば、どこの福祉事務所もこぞってこの方法を取り入れ金沢市では単年度、1千万円といわれる削減を出来るのである
そのようなことが現実的でないことは、実施要領というものがそうならないようにこと細かく規定されて、それにもとづいて運用されており、この間の歴史のなかで紛らわしいものはそういった形で淘汰されてきたからである
今回金沢市は、そのことに気がつかず法令遵守違反を続けてきているわけで、他の自治体でも同じように間違いをしてきているから、自分たちも悪いことをしていないというような言い方をしているが、「コンプライアンス「法令遵守」が言われるこのご時世には通用しない「赤信号みんなでわたれば恐くない」といったふざけたような、言い分に過ぎないのである
さて、本題にはいるが、070613時点で金沢市は「金沢市の方法は実施要領に書いてあることを守っている」と言明している、しかし、この間私たちが指摘しているように、実施要領を読み解くならば、金沢市の行った「ボーナスのないものへの特別控除未実施」は明らかに実施要領に違反した解釈であり法令遵守違反といわなければならない
そこで、その部分に限ってもう少し詳しく根拠として検討する
(解説=広田)------------------------------
私たちが、生活保護の解釈をならうときに最初に教えられるのが「小山進次郎 生活保護法の解釈と運用』中央社会福祉協議会1951年刊」である、生活保護制度を解明しようとするものにはなくてはならないものである
しかし、今回の事例である「特別控除」は、この時点ではまだその言葉が出てこない、おそらく制度として無かったのではないかと思う
そこで、厚労省の厚生労働省法令等データベースシステムでの−通知検索−でみると、次の文書が紹介されている
------------------------------(解説=広田)
○生活保護法による保護の実施要領について(昭和三六年四月一日)(発社第一二三号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生事務次官通知)
(4) 勤労に伴う必要経費
(1)のアからウまでに掲げる収入を得ている者については、勤労に伴う必要経費として別表「基礎控除額表」の額を認定すること。
なお、新規に就労したため特別の経費を必要とする者については、別に定めるところにより、月額一万四〇〇円をその者の収入から控除し、
未成年者については、別に定めるところにより、月額一万一六〇〇円をその者の収入から控除すること。
また、就労に伴う収入を得ている者については、特別控除として、年間を通じ次の表の額の範囲内において必要な額をその者の収入から控除すること。
一級地 二級地 三級地
特別控除額 一五万九〇〇円 一三万七三〇〇円 一二万三七〇〇円
(解説=広田)------------------------------
この、昭和36年の厚生事務次官通知では各控除の種類と金額を定めたものであり、詳細は次の昭和三十八年の厚生省社会局長通知でさらに詳細に示される
この部分が生活保護手帳では、各控除の最初の説明で記載されている
特別控除についても、「年間を通じ次の・・額の範囲内・・必要な額・・」と記載され、金額は具体的に書かれたが、取り扱いの内容は詳細に記載されなかった
ここでいう「必要な額」としていることについては、広田の推測であるが、働いた時間的なものや、能力の活用状況など「勤労に対しての貢献度」を裁量としていたのではないと考えられる
こういった表現が違う意味に取られるのを防ぐために、次の38年通知がさらに詳しく解説したのではないかと思われる
------------------------------(解説=広田)
○生活保護法による保護の実施要領について(昭和三八年四月一日)(社発第二四六号)
(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省社会局長通知)
(2) 特別控除
ア 特別控除の年間控除額は、当該被保護者の収入年額の一割を限度とするが、年末における控除の適用に当り当該一割に相当する額が限度額をこえる被保護者で、就労の状態が良好であると認められる者については、限度額に一・三を乗じて得た額まで認定して差しつかえないこと。
(解説=広田)------------------------------
ここで、「限度とするが」という表現があり、何か裁量を持てる要素のように書いているが、後ろの方で1.3倍まで増やすことが出来ると、その功労に対して割り増しの考えを認めている
とすると、前半にはその反対である、功労を疑われるものや期待した能力活用をしないものに対するペナルティ的性格を持った処置として、「限度」に至らない場合も認めたと見るとどうであろうか
ただ、この文脈をどうみても特別控除を「ボーナスを基準として」適用しなくてもよいと判断する性格の項目ではないと思われる
もし、そういった条件を書くのであれば、この項でなく「イ」のように、別な項をたてて記載すると思われる
------------------------------(解説=広田)
イ 世帯員が二人以上就労している場合には、(1)のイによる収入年額の最も多い者については、アにより認定し、その他の者については、それぞれアにより算定した額に〇・八五を乗じた額を認定すること。
(解説=広田)------------------------------
ここで、同じように働いたものに金額の差を付けているのはなぜか?、もし、労働に対する経費という見方だけであるのであれば、同じ金額でなければ合理的な理由とならない
この控除も含め基礎控除などでも二人目などに差異を付けていることを考えるならば、勤労に対する「功労」「推奨」的な性格を持って、勤労を自立更正に結びつけようとする表れではないかと思われる
------------------------------(解説=広田)
ウ 控除は、臨時的収入のあった場合等適宜の時機に年間控除額を一回ないし数回に行なうことを原則とするが、収入の形態等により毎月控除することが適当である場合には、各月に分割して控除を行なっても差しつかえないこと。
(解説=広田)------------------------------
この「ウ」の項目を持って、誤解したとの見方も指摘されている
控除を、「臨時収入」の有ったときと書いてあるために、それがある人に適用すると誤解したというがどうであろうか?
ここに書いてあるのは、どのタイミングで控除をするかという「方法」についての記載である
誰について控除するとか、しないということはここには何も書いていない
しかも「毎月控除することが適当」といった表現は、ボーナスのないものに対しての控除方法の指示ではないかと思われる
------------------------------(解説=広田)
(4) 未成年者控除
ア 未成年者(二〇歳未満の者をいう。)については、その者の収入から月額一万一六〇〇円を控除すること。ただし、次の場合は控除の対象としないものであること。
(解説=広田)------------------------------
これを見てわかるように、未成年者に控除すると書き、その除外規定として次の三点を書いている
ここには今問題となった、高校生やそれを思わせる表現はなく、アルバイトもだめなどといった、その就労方法についての記載も見あたらない
なぜ、未成年者控除の除外として「高校生」がでてきたのかここでは想像すら出来ない
------------------------------(解説=広田)
(ア) 単身者
(イ) 配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。以下同じ。)又は自己の未成熟の子とのみで独立した世帯を営んでいる場合
(ウ) 配偶者と自己の未成熟の子のみで独立した世帯を営んでいる場合
イ 未成年者控除の適用をうけていた者が月の中途で成年に達したときは、その翌月から認定の変更を行なうこと。
(解説=広田)------------------------------
以上が、昭和36年の厚生事務次官通知をさらに補完するために、この昭和38年厚生省社会局長通知が記載されている、そして、さらにその解釈を深めるために厚生省に寄せられた「問」に対しての「答」を例示しているものである
さらに、「生活保護手帳 別冊問答集」として、厚生省(現・厚生労働省)社会・援護局保護課厚生労働省(旧厚生省)が生活保護の運用について、その具体的運用の判断基準を問答形式で明らかにしたものがある(平成5年('93)の刊行以来、数々の改訂がされているにもかかわらず、改訂版等の刊行はされていませんので、それ以降この部分についても改訂がされている可能性もあります、もしそうであれば、その情報をお持ちの方はお知らせ下さい:広田)
------------------------------(解説=広田)
○生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和三八年四月一日)(社保第三四号)
(各都道府県・各指定都市民生主管部(局)長あて厚生省社会局保護課長通知)
(解説=広田)------------------------------
つぎに、その解釈を具体的なケースを例示し解明しているのがこの課長通知である
------------------------------(解説=広田)
問一五 授産施設で就労する者については期末、賞与等の年間臨時収入がないが、この場合特別控除は月割で毎月行なって差しつかえないか。
答 授産施設を利用して稼働収入を得ている場合であって年間一回ないし数回に控除を行なうことが適当でない場合は、月割で控除して差しつかえない。
なお、授産施設を利用して稼働収入を得ている場合と同様な収入形態にある者についての特別控除も同様に月割で行なって差しつかえない。
(解説=広田)------------------------------
この問答にはそのまま言葉として臨時収入のないものの取り扱いをたずねているものである
まず、臨時収入が無くても適用しても良いという考えはこれではっきりと読みとれる
それでは、臨時収入が無いものを適用しない福祉事務所があるとすると、その受給者と前記適用される福祉事務所とは、同じ条件のなかで福祉事務所の違いにより取り扱いが異なることになる
これは、実施要領の期待する公平な取り扱い「法の下に平等」といったことが実現されず法令遵守違反となる
もともと、実施要領や問答集でくどいほど疑義解釈も含めて、解説がされてることはその取り扱いが日本国中同じでならなければならない、といったことがあるのである
したがって、いかなる福祉事務所であっても、独自に実施要領と違う取り扱いを決めることは出来ないのである
また監査をする立場ではどうであるか、同じ実施要領にもとづいて監査しているはずが、片方はそれが認められ、片方はそれが認められないということになる
これでは、監査の役割を果たすことが出来ない
------------------------------(解説=広田)
問一六 勤労控除中、特別控除を盆及び歳末の二回に措置する場合には、ほぼ同額ずつとしてよいか。
答 社会生活の実態にかんがみ、盆、歳末の控除額は、おおむね、一対二の比率によることが一応の基準として考えられる。
(解説=広田)------------------------------
特にコメント無し
------------------------------(解説=広田)
問二七 削除
問二八 特別控除の適用にあたり被保護者の「収入年額」はどのように算定するか。
答 「収入年額」は、暦年を単位とし、毎年一月から一二月までの間における保護受給期間について収入認定上の基礎となった就労による収入総額(前年の収入が分割認定により繰り延べて認定されている額を除く。)をいうものである。
(解説=広田)------------------------------
特にコメント無し
------------------------------(解説=広田)
問四四 年末において特別控除を行うことを予定していたが、臨時収入がないか又は少額であるために年間控除額の限度額(収入年額の一割に相当する額又は次官通知第七の3の(4)に掲げる特別控除額のいずれか少ない額とする。
ただし、当該一割に相当する額が前記特別控除額を超える被保護者のうち、就労の状態が良好であると認められるものについては、当該特別控除額に一・三を乗じて得た額とする。
また、世帯員が二人以上就労している場合には、局長通知第七の3の(2)のイにより当該世帯員についてそれぞれ得た額とする。)まで特別控除を適用することができない状態にある者については、一二月の当該臨時収入をもっては控除しきれなかった残額を、当該年度の末までの間に認定して差し支えないか。
答 お見込みのとおりである。
(解説=広田)------------------------------
ここでも、臨時収入がないものを例示として取り上げている
内容は、控除しようとする金額が収入が少なかったために全額控除しきれなかったので、後送りして控除してあげても良いかというものである
------------------------------(解説=広田)
「生活保護手帳別冊」問384
{臨時収入のない者の特別控除}
特別控除は、臨時収入が期待できない者については、何を標準として適用すべきか、それとも一律に毎月控除しなければならないものか。
「答」
特別控除は、臨時収入のあった場合適時の時期に年間控除額を一回ないし数回に行うことを原則とすることとなっているが、臨時的収入のないものについては、収入の実態に応じて特別控除を考慮して差しつかえない。ただし、一律に毎月控除することは必ずしも本来の趣旨に合致するものではないので、その点については、特に留意し取り扱われたい。
参照:局:第7−3−(2)−ウ :課:第6−15 :課:第6−44
(解説=広田)------------------------------
金沢市は私たちとの話し合いでこの問答を根拠として持ち出してきた
しかし、逆にこの問答は、臨時収入がないものを例示として取り上げているものである
根拠として説明するなかで
「特別控除は、臨時収入のあった場合適時の時期に年間控除額を一回ないし数回に行うことを原則とすることとなっている」
と、この文言だけを切り取って取り上げ、紹介し「それだから臨時収入のあったものだけとした」というものである
この問答の、次の文言「臨時的収入のないものについては、収入の実態に応じて特別控除を考慮して差しつかえない」と有るのを見落としているのであろうか?
「考慮して」という言葉を取って「自分たちが決める裁量」をこの言葉に求めたのであろうか?
そもそも、この問答は「控除の対象者」について尋ねているものでなく、控除のタイミングについて尋ねているものである
そして、その答えとして「毎月しか収入がないから毎月控除する」という方法でなく、本来の趣旨として年間分と認知できる方法、実際の現場では年末の収入からの控除として取り扱われているものであるが、そういった方法でしなさいよ、それが趣旨ですよと答えているものである
------------------------------(解説=広田)
「生活保護手帳別冊」問378
{自営業者の特別控除}
自営業を営んでいる被保護者であって、臨時的経費の実際の所要額が、特別控除の限度額以下であると認められるときは、現に必要と認められた額を特別控除するにとどめてよいか。
「答」
特別控除は年間を通じて定める額の範囲内で行うべきものであるから就労収入を得ている被保護者の臨時的職業必要経費が特別控除の限度内で賄われることが明らかである場合、その限度で特別控除を行うことが、保護の目的達成上妥当であって、勤労意欲を阻害しないかぎり、お見込みのとおり取り扱って差しつかえない。
すなわち自営業を営んでいる場合の職業的経費は、当該事業収入からの必要経費としてその実費が控除されることとなっているので、特別控除の適用は、個々のケースの実態に応じて、取り扱わなければならない。
参照:次:第7−3−(4) :局:第7−3−(2)
(解説=広田)------------------------------
自営業者に特別控除を問うのであるから、臨時収入がないものを例示として取り上げている
内容はこの際割愛するが、文面を見てわかるとおり、特別控除についての実情に応じて適用するとしている
------------------------------(解説=広田)
「生活保護手帳別冊」問380
{内職をしている者の特別控除}
内職などの収入が少額の場合そのものが努力して就労している場合には、収入の一割を特別控除として認定してよいか。
「答」
安定した内職であれば基礎控除、特別控除ともに認められる。
ただし、収入額の一割を機械的に適用することは、特別控除本来の趣旨に反するものであるので、就労状態をよく観察し、他の者との均衡を考慮して認定することとされたい。
参照:局:第7−3−(2)−ア
(解説=広田)------------------------------
これは内職者に特別控除を問うのであるから、臨時収入がないものを例示として取り上げている
これも内容は割愛するが、積極的に安定した収入を得ることを誘導するように、特別控除を適用することを解説している
------------------------------(解説=広田)
以上が、私が関連すると思われる生活保護実施要領を記載した生活保護手帳、および生活保護手帳別冊の内容から検討したものである
これ以外に根拠があるとは考えられないので、金沢市が述べていることについては、この検討を見る限りでは何ら根拠がなく、法令遵守違反の解釈といわざるを得ない
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