(プロフィール)
二十九年前、「明日に向って撃て!」の屈折した青春を象徴するような若者の最期を演じ一躍名をあげた。「追憶」「スティング」「華麗なるギヤツピー」が大ヒットして人気は群をぬくが、何ものにも縛られない精神を好み、みずから製作した初作品が76年の「大統領の陰謀」。初監督作が80年の「普通の人々」。「大統領の陰謀」はウォーターゲート事件を執拗に取材し、ついにニクソン大統領を退陣に追い込んだ記者の実話の映画化。「普通の人々」は子どもたちのいうことに耳を傾けよという親たちへのメッセージ。この時アカデミー賞の監督賞に輝いた端正な濱出ぶりは、こんどの作品まで五作に一貫している。61歳。
映画は、モンタナの大自然を舞台に、牧場で馬や牛とともに生きるカウボーイ、トム・ブツカー(レッドフォード)と、落馬事故で足を切断、心に深い傷を負った少女と母ア二−(クリスティン・スコット・トーマス)との交流を描き、心なごむ人間回復のドラマ。トムの誠実なやさしさは、事故のショックで凶暴になった馬だけでなく、少女の心の傷も、大都会で雑誌編集長として肩ひじはって生きてきた母親の娘への自責の念や苦悩をも癒していく…。
「科学・技術の進歩ははかりしれないテンポですすみ、人類に大きな恩恵をもたらしている。しかし反面、その現代社会は私たちにさまざまなプレッシャーをあたえ、トラブルを持ち込んでいる。たとえば携帯電話があり、パソコンがあり、コミュニケーションする道具は数多くあるが、しかしほんとうに人間同士が心を通わせることが、とてもむずかしい時代です。そう思いませんか」
そこがこの映画の主題にかかわるところで「アメリカの東と西の二つの文化圏を対比したいと思った。東はもちろんモダンな大都会。近代のハイテクがおう歌しているが、人間への大変なプレッシャーがある。一方、西には消えつつある古い西部があり、そこには人間と自然と動物とが一体となって暮らし、家族もちりぢりにならず一緒に暮らしている。その二つの文化圏の衝突・・そこにドラマ性を見つけたのです」。
赤みをおびたブロンド。おだやかな笑みをたたえて語る中身は知的で前向きだ。映画で少女がブツカーに「あなたに怖いものはないの?」と聞く場面がある。「年をとるのか怖い…と答えますが、あれは冗談(笑い)。その後ブツカーがこういう。世間にたいして役に立たない人間になるのが怖いんだ、と。自分の存在理由や目的のない人間になることが恐ろしい。これはだれにも当てはまる大事なこと」俳優としての義務、責任などという言葉も飛びだす。そして・・・
「いま映画の中で不倫を描くのはたやすくなっています。モラリティーが低下しているから。俳優として私も演じてきましたが、退屈した。私がもっと興味をもつのは、不倫ではなくて本当に人間と人間がはぐくむ愛。犠牲をはらってぞも守ろうとする大きな愛。この映画では、家族というもっと強いものを犠牲にしないがための結末にしています」
胸の内に痛みを秘めた男の魅力は、スクリーンの中だけではなかった。
今回、演じるのは、牧場で馬のクリニックをするカウボーイのトム・プッカー。「馬を扱った映画は数多くあるが、馬の再起、心を描いたものは無く、馬の心理をスクリーンに表したかった」といいます。