馳浩の古典こらむ

 大海の
 磯もとどろに 寄する波
 われて砕けて 裂けて散るかも

源 実朝(さねとも)
1192〜1219
『金槐和歌集』雑部所収


 4月4日。新日本プロレスの東京ドーム大会において、プロレス界の巨星が砕け散る。

 アントニオ猪木選手が現役引退試合を行うのである。力道山亡き後、日本のプロレス界を引っ張った一方の雄、ジャイアント馬場選手は、今年の1月に還暦記念試合を行い、生涯現役レスラーであることを宣言してますます意気盛んであることとは対象的である。当年とって55歳の猪木さんの引退試合には、感慨深いファンが多いのではないだろうか。

 ブラジル移民だった十代後半に、力道山にスカウトされて日本に帰国。以来、三十数年間にわたって日本国民の『燃える闘魂』に火をつける闘いをくり広げてきた。全盛期のモハメド・アリとの世紀の対決や、参議院議員時代にイラクに乗り込んで平和のためのスポーツの祭典を開催し、日本人人質の解放に尽力。

 まさしくプロレスのリング内外でセンセーショナルな話題をふりまき続けた男の最後の試合。昭和の時代がまた1つ幕を閉じてしまうような寂しさをも感じる。夢やロマンを青少年に与え続けてきた功績は大きい。

私も一度だけ対決したことがあるが、常人を超越した活力には、ただ脱帽である。

この歌は『大海の磯をとどろかしてうち寄せる波。よく見ればそれは割れて、砕けて、さらに小さく裂けて、最後には散って消える』という意味。

まさしくアントニオ猪木は、日本国民に大きなエネルギーを与える大波であった。そして4月4日、砕け散った。

みごとな散り際である。

夢をありがとう。

そしておつかれさま。


[戻る]