馳浩の古典こらむ

 うずくまる          
 やくわんの下の
 寒さかな

内藤丈草じょうそう
1662〜1704
枯尾花所収


 この句は病床の松尾芭蕉の枕元にあって、門人たちが作句した中の一句である。師芭蕉の病気を案じて、薬を煮ているやかんの火の下で、うずくまるようにして不安げに薬のできるのを待っている時の寒さを表現している。

 もちろん師を心配する心の動きを含めて『寒さ』と言っているのである。

 日本経済の冷え込みの回復を一意専心の思いで待っている三塚博大蔵大臣の心中に照らし合わせてみると、わかりやすいのでは。

 第142回通常国会開会の冒頭は、橋本首相と三塚蔵相の経済演説で幕が開いた。本来ならば首相の所信表明演説が行われ、野党が厳しい代表質問を浴びせることで本会議場に議論の華が開き、一年のスタートが切られるはずである。景気回復を期する政府の姿勢が差し迫っていることをうかがわせる。

 日本政府が目指している経済運営は、フリー(規制緩和)フェア(情報公開)グローバル(国際競争)。そして自己責任の原則。

 しかし、消費は落ち込み、金融機関が金融ビッグバンを控えて自己資本比率を上げるために貸し渋りをし、中小零細企業は返し渋り(返したくても返せない)、加えて円安、株安、債権安のトリプル安で金融市場も不安を抱えたままの1998年の船出。

 この危機的状況を認識し、先手先手と対策を打たねばならないのが三塚蔵相の役割である。手をこまねいて不安げにうずくまっていてはならない。中期の財政構造改革実現と、現下の景気回復のために、今こそ政府のリーダーシップが発揮される時だ。


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