馳浩の古典こらむ

 ふゆの夜や          
 針うしなうて
 おそろしき

桜井梅室(ばいしつ)
1769〜1852
 (梅室家集)所収


 年の暮れにあたり、金融機関の不安な経営状態のニュースばかりが聞こえてくる。銀行、信金、信組、証券会社、保険会社など。つい、『私の預けているお金や保有している証券や株券は大丈夫だろうか?』と、取引先の金融機関の経営状態の指針である株価の動向に一喜一憂したりしている。

 日本人は『タンス預金タイプ』が多い。つまり、運用益はそんなに期待できなくても、預けて安心なところに任せておく、といったタイプだ。ところが、それも金利の低いご時世においては当てはまらない。どうしても金利の高い金融機関に預けなければ、と目が移り始めた矢先に、相次ぐ不祥事の発覚で日本の金融機関に対する信頼が国際的に失われてきた。これでは安心して個人資産を運用できない。ましてや、銀行側も、貸し渋りをしているため、年末のこの時期、つなぎ融資を受けられずにつぶれて行く中小零細企業は数限りない。橋本総理の提唱する六大改革の一つ、金融システム改革では、体力のない金融機関はこれから自然淘汰(とうた)される運命にある。とすると、日本の金融システムを守り世界の荒波にもまれても生き残ることのできるように、政策転換がなされなければならないということ。この句は、『冬の夜、縫い物をしているうちにふと針を見失った。無気味な恐怖感に襲われた』という意味。方針を見失うと経済が暗黒の状況になる、という日本の現況のようだ。宮沢元首相の公的資金投入案や、梶山静六氏の十兆円新型国債の発行など、アイデアは出ている。国民大衆の無気味な恐怖感を取り除くために、景気対策は待ったなし、だ。


[戻る]