馳浩の古典こらむ

 人恋し             
 雪の朝気(あさげ)
 ただひとり

榎本星布
1732〜1814
星布尼句集所収


 ようやく参議院で『公的介護保険法案』が成立した。これで2000年4月1日から公的介護保険制度がスタートすることになるわけで、一安心。しかし法案が成立し、制度ができたからといって介護の問題が全(すべ)て解決したわけではなく、むしろ多くの課題は残る。

 老境に入り、病気や老衰が原因でボケたり日常生活を他人の手を借りないと過ごせない虚弱状態になったりすることは、誰(だれ)も否定できない。私かもしれないしあなたかもしれない。その時は、突然訪れる。誰が、どうやって対処し、要介護状態になっても人間的な最低限の生活を維持することができるのだろうか、という問いかけが公的介護保険制度の出発点である。高齢者単独世帯は全国で570万世帯を超している。家族、親族の中でも世代間の溝は広がっている。介護には、お金も労力も技術も、そして何より愛情が必要。それらの面で家族の負担は重くなるばかり。あらゆる方法で介護支援の道を探らなければならない時代なのである。

 この句は病中吟である。『明け方病床に目ざめると、外は雪である。家人は朝の仕度(したく)に忙しく、私の枕元に付き添ってくれる者もいない。この雪景色を語り合う友もなく、ただひとりでながめている』という意味。

 制度はできても介護の課題は残る。その最重要ポイントはこの句に凝縮されている。『ただひとり』の心境である。要介護者は、世話さえしておけばそれで良いという存在ではない。あくまでも家族の一員なのである

わすれないで。


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