馳浩の古典こらむ

 (こがらし)の           
 一日吹いて
 (を)りにけり

岩田涼莵
(りょうと)
1659〜1717
(伊勢新百韻)所収


 山一証券が経営危機に陥り、自主的な廃業申請と営業の休止を正式に決めた。これから手続きに入るわけだが、最終的には会社解散、廃業、つまり会社の存在が全くなくなるということである。

 そもそもこの最悪の事態が起ったことには理由がある。一つには総会屋に対する利益供与の発覚。これはまじめに投資している個人顧客に対する裏切り行為であり、一気に社会的信用を失ってしまった。

 二つめには、評価損を抱えた株式を顧客間で高値で取引させる『飛ばし』が破たんしたこと。これによって財務諸表に記載されない簿外債務が2,648億円にもふくらんだ。そして極め付けは、米国の有力格付け会社によって『投資不適格』のらく印を押されたこと。これによって短期の資金調達が困難になり、会社更生法の申請もできず、自主廃業の道しか残されていなかった、ということである。『日本の常識は世界の非常識』の一つの好例である。日銀特融の発動で投資家の資産保護には万全を期すとは言うものの、相次ぐ金融機関の不祥事、破たんに日本の金融市場への不安感は内外に広がっているのは確か。

 資産返還業務にあたるため、解雇される約7,500人の従業員は当面は現状の規模を維持していくそうである。しかし先のない仕事である。

従業員のふところにも将来にも心の中にも冷たくやり切れないこがらしが一日中吹くことになるだろう。

 あなたの取引銀行は大丈夫ですか?


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