馳浩の古典こらむ

 身を捨つる           
 身はなきものと 思ふ身は
 天一自在 うたがひもなし

木喰上人
1718〜1810
吏登句集
五行


 ジョホールバルの奇跡。日本代表サッカーチームが、ワールドカップフランス大会のアジア地区第三代表決定戦を勝ち抜いた。ドン底のチーム状態を立て直した岡田監督の采配(さいはい)も見事であった。私としては、Vゴールを決めた“野人”岡野選手にスポットライトを当ててみたい。

 日本チームFW陣はカズを中心としてきた。しかし若い城選手の台頭、呂比須の途中加入、さらにドーハの悲劇組のゴン中山や高木の代表復帰もあり、一体誰(だれ)を使うのかが決定戦の焦点であった。結局、イラン戦の先発はカズと中山。動きの落ちた後半には城と呂比須の投入。そして延長に突入して岡野選手が満を持してフィールドを野人のごとく駆け回るチャンスを得たのである。予選を通じて、彼の出番はなかなか巡ってこなかった。

 代表選手とは言えベンチをあたためるばかりの毎日に嫌気が差したこともあろう。そんな彼をチームメートは『いつかおまえの出番があるはずだ』と励まし続けたという。そして歴史的Vゴールは彼の右足から放たれたわけだ。

 この歌は『天一自在の境に達するには、身を捨て、身は無きものと思い切った時に疑いもない』という意味。

 天一自在の境とは、天は一つにして法に達する門は自由自在どこにもあるとする心境。
日本チームも一つに結束しフランスW杯への門を自らの力でこじ開けた。

その立役者が、耐えに耐えた野人岡野選手であることを痛快に思う。

本大会での活躍に更に夢をつなぎたい。

                 
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