馳浩の古典こらむ

 斧入れて            
 香におどろくや
 冬木立

与謝蕪村
1716〜1783
蕪村句集


日ロ首脳会談が、厳寒の地クラスノヤルスクで行われた。橋本首相、エリツィン大統領ともにノーネクタイの非公式会談である。当初は、お互いの腹を割った親睦(しんぼく)会的な意味合いが強かったはずなのであるが、ノーネクタイで、ましてや地方都市での開催という気安さもあってか、ずい分踏み込んだ実務的な交渉も話し合われたようである。

 日本とロシアの間には、これまで北方領土問題が外交交渉の高い壁として横たわり、一歩踏み込んだ交渉が行われてこなかった。

 日本は北方領土返還が実現しなければ本格的な経済協力はできないと突っ張ねてきたし、ロシア側は停滞する経済立て直しのためにも日本の支援、技術協力は不可欠と追ってきて両者突っ立ったままの平行線であった。

 それが今回の会談によって、2000年までに1993年の東京宣言を踏まえた上での平和条約を締結するという合意にまでたどり着いたのである。これはまさしく領土問題の解決、相互支援に基づくロシアでの開発事業への日本資本の参画を意味するもの。期限を区切ったことで日ロ関係ウオッチャーや外務省当局は驚きを隠せないほどである。

 この句は『生気を失った冬木立に勢いよく斧を入れるとぷうんと新鮮な木の香りが鼻をついて流れてきた』という意味。

 どちらからともなく思い切って日ロ間の硬直した外交関係に斧を打ちこんだ橋本首相とエリツィン大統領。周囲はその新鮮な香りに驚いているばかりではなく、2000年には新しい芽が出る方向へと導く努力を続けるべきであろう。

 


[戻る]