馳浩の古典こらむ

 星明り                 
 身の毛ぞよだつ
 竹の子や

桜井吏登
1681〜1755
吏登句集


 
 私は敷かれたレールの上をひた走る世襲制が大嫌いである。あらかじめ将来の地位が約束され周囲からもてはやされるのは、競争社会の中で問われるリーダー像に反する。

 しかるべき手順を踏み、その人格と能力が認められて昇進の道を歩むならいざしらず、二世、親族というだけで重要ポストにつかれたのでは組織の士気に影響するではないか。

 近くて遠い国、おとなりの北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)では金正日書記がついに朝鮮労働党の総書記に就任した。故・金日成主席の急死から3年3ヵ月が経ち、唯一の後継者がいよいよ最高指導者としてその立場を得たと言えよう。実は今から2年前、主席を失い、悲しみに打ちひしがれた北朝鮮を訪問した私は、通訳をつとめてくれた大学教授にこう尋ねた。

「どうして二世の金正日が唯一の後継者なんですか。主体思想(北朝鮮の大系的思想)を理解した方なら他にも理想的なリーダーになるべき人がいるのではないですか?」

 彼は一瞬言葉につまりながらも「金正日書記こそが一番の後継者と国民は認めている」の一点張り。まさしく暗黙の了解。誰(だれ)も異論をはさむ余地はないと頭から決めこんでいた。

 この句は『星明りの夜、竹の子が生えている。その細かな毛が夜目にもはっきり見え、身の毛もよだつような気がする。』という意味。

 食糧難、経済危機という暗い国情の中で、ごく自然に竹の子が生えるように誕生した金正日総書記。


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