馳浩の古典こらむ

 木喰も               
 いづくのはての行だおれ
 いぬがからすの ゑじきなりけり

 木喰上人五行
1718〜1810
 


 ダイアナもフランスパリの行きだおれ
  追うパパラッチのゑじきなりけり

 ダイアナ元妃を知る世界中の人々は悲しみと怒りの底に沈んでいる。昨年チャールズ皇太子と世紀の離婚をしてしまったとは言え、将来は間違いなく国王の母、つまり国母となる立場にいる人の事故死。恋人と噂(うわさ)されるアルファイド氏と同乗の車が、うるさく群がる追っかけカメラマンをまこうとしてスピードを出し過ぎ、セーヌ川をくぐるトンネルに差しかかったところでの激突事故。彼女の美しさと数奇な運命ゆえに引き起こされた事故とも言えようか。

 私は彼女と同年齢であるが故に、ふつうの暮らしを高貴な身分のせいで台無しにされてしまった無念さに同情を禁じ得ないのである。本来ならば、2人の息子とバカンスを過ごし、新たな恋に身をゆだねて人生の山谷を超えて行くはずであったのに、それもこれも全(すべ)てパパラッチに奪われてしまった。有名人のスキャンダルを追いかけて、そのネタを大衆紙に高額で売りつけることによって稼ぐフリーカメラマンたち。どんなに言い訳をしたところで、プリンセス・オブ・ウェールズは帰らぬ人になってしまったのである。この事件は世界中のマスコミ人の良識に対して問題提起をしたはず。いくら公人であろうともプライバシーをのぞき見る権利は誰(だれ)にもなく、そんなものは全く「知る権利」でもなんでもないのであるから。私は同時代を生きたヒロインの死に深く失念する。彼女は死して伝説となったのだろうか。


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