馳浩の古典こらむ

 幾山河            
 越えさり行かば寂しさの
 (は)てなむ国ぞ 今日も旅ゆく

 若山 牧水
1885〜1928
  


 火星。日没直後に西の空に赤く見える。こどもの頃(ころ)、その異様な明るさと、だいだい色がかった不気味な赤色に恐怖を感じたものである。

 「あの星には悪魔がいる」「あの星を十分間見つめ続けると、火星人がやって来て連れ去られるらしいぞ」と、友人同士で勝手なストーリーを作りあげたりしたことを覚えている。それほど印象的な星。
 夜空を見上げてあれこれと夢を語るものもまた楽しいものであるが、その夢が現実となってしまうといささか興ざめすることも事実。

 21年ぶりにNASAの火星探査機「マーズ・パスファインダー」が無事火星に着陸したのは、日本時間7月5日午前2時8分。着陸地点は火星北部にあるアレスの谷。送られてきた映像を見ると、巨大な岩がごろごろしている赤い砂漠のような風景。とっても生物が存在しているようには見えないが、かつて大洪水があった場所と研究者は推定している。この先小型探査車が火星表面に降りて走行しながらさまざまなデーターを地球に送ってくるわけで、少しずつ神秘のヴェールがはがされて事実が解明されることになる。科学者にとっては夢のような発見かもしれないが、私のようなロマンチストにとっては夢がはかなく消えてしまうような気になる。

 この歌は「いくつかの山河を越えていったならば、私の心に棲(す)む寂しさが消えてなくなり、心を満たしてくれる土地にめぐりあえるだろうか。今日もその土地を求めて旅を続ける」の意味。さて、火星は我々地球人の心を満たしてくれるだろうか。


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