馳浩の古典こらむ

 古池や                
 (かわず)飛び込む
 水の音

 松尾芭蕉
1644〜1694
蛙合 かわずあわせ


 1997年7月1日午前零時。まさしく歴史的なこの日この時。香港が中国に返還された。アヘン戦争の敗北により、英国に統治されるようになって一世紀半が過ぎた。中国4千年の歴史の中で見れば、他国に侵略されていた領土が戻ってきただけということになるのだろうが、香港返還は大きな点で過去の幾多の領土紛争とは処理のしかたが違っている。

 それは、中国側が一国二制度を容認したことである。政治的には共産党による一党独裁。経済的には香港の自由主義経済を受け入れること。中国の国内に異なる二つの制度が存在することになるのだ。今後50年間は、香港は特別行政区として返還前とさしてかわらぬ経済体制を保障されるわけだ。

 私は、式典をテレビで見ていて、中国の軍隊が香港に進駐するのを不思議な気持ちで受け止めた。これは香港の中国返還ではなく、「中国が香港に進出した」という表現の方がぴったりくるのではないかということである。返還によって香港での政治活動など制限されることも多かろうが、それよりも中国本土内の民主化勢力や、自由主義経済勢力に勢いをつけさせる大きな原因となりはしないかという心配がある。一国二制度の危険な香りを感じるのは、私だけであろうか。また、台湾にしてみれば次は自分たちも香港のようになるのではとの不安があるはずだ。

 この句は有名すぎて解説もいらないだろう。私の率直な感想で芭蕉に学んでこういう句を作らせてもらいたい。
「香港に中国とびこむ水の音」
その波紋やいかに。


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