馳浩の古典こらむ

 藤衣は            
 つるる糸はわび人の
 涙の玉の 緒とぞなりける

 壬生忠岑
生没年未詳
古今和歌集


 中村玉緒さん。女優として、最近はコメディータレントとして大活躍。業の深い女性を演じては深みのある演技で魅せてくれ、テレビのコメディー番組では体当たりで突撃リポーターばりの天然ボケを見せてくれる。きっとおおらかな性格なのだろうなと、笑わせてもらいながらもその品の良い物腰に妙に感心している。その玉緒さんのご主人、勝新太郎さんが65歳の修羅場の多い人生の幕を閉じた。

 1組の夫婦としてこのお二人を見るならば良くできた妻に暴れん坊のご主人、となるだろう。「影武者」の降板、撮影中に真剣を使用し誤って殺陣師が事故死、ハワイでの大麻事件と、スキャンダルを巻きおこし、ふつうならば一般社会からいつ抹殺されてもおかしくないような夫を、玉緒さんは離婚もせずにずっとかばいつづけた。

 私は、社会人として失格の勝さんをどうのこうの言うつもりはない。けれど、家庭にあっては、常に身内を信じ、大きな心で包んであげていた玉緒さんは妻の鏡であると敬服する。一体、夫婦の絆(きずな)をここまで保ち続けることのできる女性がどれだけいるであろうか。

 この歌は「喪が果てて、喪服がほつれるころになったが、ほつれた糸は悲しみ沈んでいる私の涙の玉を貫く糸になっていた」という意味。

 中村玉緒さんも喪服を着る立場となってしまった。テレビで拝見した葬儀では気丈にふるまっておられたが、その心中は玉のような涙にくれていたことであろう。在りし日の勝さんをしのぶと共に、中村玉緒さんの今後のご活躍を祈りたい。


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