馳浩の古典こらむ

 恋すてふ
 わが名はまだき立ちにけり
 人知れずこそ 思ひそめしか

壬生忠見 みぶのただみ
生没年未詳
拾遺和歌集


 忍ぶ恋というのはやっかいなものである。他人に悟られないようにと思って恋をし始めただけに、心の中は誰(だれ)にも相談できない恋心でいっぱい。そうかといって誰からも全く相手にされないことは、自分の存在を無視されているかのようで不安でもある。さらにそうかといってうわさばかりが広がってしまうときまりが悪い。忍んでいるうちが恋の花でもある。全く理屈では解明できない恋心。

 最近では、小沢一郎新進党党首の、自由民主党に対する忍ぶ恋が公然のうわさである。

 米軍用地特措法改正の際、「国家的見地」からの一言で法案に賛成。以後、政権与党自民党に対する「意識」の高さは隠そうとしても隠し切れない公然の秘密。

 ゴールデンウイーク中には、示し合わせたかのように自民党総務会長の森喜朗氏とイギリスで政局について会談。また、郵政三事業民営化論者の小泉純一郎厚生大臣や行政改革とりまとめのキーマンである梶山静六官房長官とも会談。「行革」の錦の御旗(みはた)の下に保保連合を仕掛けて権力に返り咲こうと懸命の根回しぶりである。これを国家大計のための大団円と見るか、小沢一郎氏一流の保身術と見るかは、評価の分かれるところ。

 この歌は「誰かに恋してるという私の浮き名が世間に立ってしまった。人にさとられないように注意深く想(おも)いはじめたことだったのに。」

 忍ぶ恋はしょせん、忍んでいればこそ。それともいつの日か成就するのか。お手並み拝見。


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