馳浩の古典こらむ

 あらざらむ
 この世のほかの思ひ出に
 いまひとたびの あふこともがな

 和泉式部
生没年未詳
後拾遺和歌集


 マリッジブルー。結婚直前の女性の極度のうつ状態のこと。新しい生活への不安、過去の精算に対する未練な気持ちが積み重なってひき起こす心理状態であり、多かれ少なかれ女性ならば一度は通る道でもある。
 結婚、入籍を2ヵ月後に控え、元恋人の住んでいるマンションの屋上から飛び降り自殺をした可愛かずみさん。享年32歳。女優、タレントとして固定ファンを持ち、かくいう私もひそかにあこがれていたカルト的アイドル。
 この投身自殺に至った原因を考えていくと、マリッジブルーというキーワードが浮かびあがってきた。結婚には理想と現実がある。とりわけ若い女性の心中は複雑であろう。
 昔つきあっていた年下の恋人との思い出。いよいよ結婚の日取りが迫り、ウエディングドレスもできあがってきた。もう後戻りできず過去に区切りをつけて新しい生活へとスタートを切らなければならなくなった時、可愛かずみさんの心は素直にそのスタート台に立つことはできなかったのであろう。また、ひどい体調不良でもあったという。

 この歌は「生きてこの世に在ることも望めないような状態になってしまいましたので、あの世へ行ってからの思い出にするために、せめてもう一度逢(あ)えますことを、切に願っております」という意味。

 もう生きられない。せめてもう一度逢いたい。くつをきちんとそろえ、元恋人のマンション屋上からジャンプ。最後の瞬間に彼女が見たのは、何だったろう。合掌。


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