馳浩の古典こらむ

 憂きことを           
 海月(くらげ)に語る
 海鼠(なまこ)かな

黒柳召波
(くろやなぎしょうは)
?〜1771
『春泥句集』所収


 冬の日本海は荒波がうねる。ズワイガニや甘エビ、ブリなどの漁期でもあり、低気圧の谷間をぬって漁船が行きかう頃(ころ)。とれたての魚貝類は激しい荒波にもまれているおかげでキトキト。とびっきりイキがいい。

私も大好物。

 ところが今年の北陸の海は、C重油が波にもまれて荒れ狂う非常事態となってしまった。

 ロシアのタンカー『ナホトカ』号の沈没事故により、大量のC重油が海洋に流れ出してしまったのである。島根県から新潟県に至る一府七県は、緊急対策本部を設置して連日回収作業に追われている。漁師は、泣く泣く自主休漁。漁船にドラム缶とひしゃくを積んで沖にくり出しては人海戦術による回収作業。

 また、海岸に打ちあげられた油は、住民や海女さんやボランティアや自衛隊員らがこれまた手作業で除去作業。岩ノリ、アワビ、サザエなどは油まみれになってしまって全く売り物にならず。荒天に阻まれて、沈没した船体の引き揚げ作業もままならず。いつ終わるともしれぬ油との格闘に、いつしか関係者も疲労の極み。

 この句は「つらいことを海中でくらげに語っているなまこであるよ」の意。

 ふわふわと海に漂っているくらげと、ゆっくりと海底をはいまわるなまこの呑気(のんき)な対話である。しかし、ことここに至ってはくらげもなまこも大被害なのである。命を奪われた魚貝類をはじめとする海の生態系が回復するのは一体いつのことなのだろうか。国の災害対策が早急になされるべき大問題である。


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