馳浩の古典こらむ

 スケートの           
 ひも結ぶ間も
 はやりつつ

 山口誓子(せいし)
1901〜 
『凍港(とうこう)』所収


 ウインタースポーツの季節が到来した。長野オリンピックを一年数ヵ月後にひかえた日本では、それぞれの競技を伝えるニュースがにぎやかになってきている。

 とりわけ注目と期待を集めているのがスピードスケート陣。

 古くは黒岩彰や橋本聖子のスター選手を生み出して日本中にブームを巻き起こしたスケート界。ここ数年は、堀井学と清水宏保の二選手が世界のトップ二強としてワールドカップ大会や世界選手権大会で好成績をのこしている。氷の上を速く滑る、という単純なこの競技で、パワーと技術とを駆使してコンマ数秒のしのぎ合いをしてみせる。世界に通用するアマチュアスポーツ選手が少なくなってしまった日本スポーツ界を憂う時、次から次へとトップアスリー卜を輩出するスピードスケート界の指導者たちの手腕も注目されてしかるべきであろう。

 おそらくそこには、極端な根性主義とゆがんだ人間関係という日本スポーツ界の悪(あ)しき伝統を打破した姿があるはずだ。

 この句は、「スケートリンクでは大勢の人たちが楽しそうに滑っている。

自分も滑ろうとしていまスケート靴のひもを結んでいる。その時間がもどかしいほど心が勇み立っている」という意味。

 スポーツの原点がこの句にはこめられている。どんな名選手も、『はやる気持ち』で競技にのぞむからこそ成長と栄光が待っているのである。


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