馳浩の古典こらむ

 旅人と              
 わが名呼ばれん
 初しぐれ

 松尾芭蕉
1644〜1694
 『笈の小文』より


 人生は旅の連続である。プロ野球選手のストーブリーグ(オフの間の人事異動)を見ていると、まさしく厳しい旅を思わせて、人生の縮図を思う。

 清原和博選手。PL学園から西武ライオンズと、エリートコースを歩んできた野球選手。この度「くじ引きではなく、自分の考えで自分の人生の選択をしたい」と主張し、フリーエージェント宣言をした。

 思い起こせば12年前。巨人軍に入団することを夢としていた高校生の清原選手の期待は裏切られ、あろうことか当時のチームメートの桑田投手が巨人によってドラフト指名され、彼は西武ライオンズヘ。以来巨人軍を破って日本一になることに執念を燃やして来たという。その執念を果たしてしまうと、改めて巨人軍への『あこがれ』の気持ちが持ち上がってきたようである。

 当時のドラフト制度とは、まさしくクジ引きで決める進路。そこには選択の余地は全くなかった。その後、プロ野球選手として活躍し、基準を満たした上で10年経てばフリーエージェント権を取得し、希望する球団と直接交渉し、移籍できるようになった。

 『クジ引き』と『執念』というしばりから解放されFA権を取得した清原選手の今後の進路選択は、まさしく新たな旅立ち。

 この句は「佗(わ)びしい旅ではあるが、初しぐれに濡れながらもやはり旅人と呼ばれたい」という意味。旅立ちには初々しさや新たなチャレンジという意味もあり、また一抹の寂しさも内包している。不安な心中でもあろうが、清原選手の新チームでの再出発を温かく見守り、変わらぬ声援を送りたい。


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