馳浩の古典こらむ

 秋空を              
 二つに断てり
 椎大樹
(しいたいじゅ)

  高浜虚子(きょし)
1874〜1959
『五百句』所収


 プロ野球界も新たな時代の幕開けのようである。今年のペナントレースにおけるセ・パ両り−グのMVP(最優秀選手賞)に、巨人軍の松井秀喜選手とオリックスのイチロー選手が輝いたからである。

 スポーツの世界は、ライバル同士の切瑳琢磨(せっさたくま)があってこそ観戦している側も燃えあがる。

 古くはON(王・長嶋)、柏鵬(柏戸・大鵬)、BI砲(馬場・猪木)時代がそれぞれのスポーツ界のリーダーであり、国民のあこがれの的でもあった。現代においては久しくヒーロー不在と嘆きの声が多かったものだが、若い二人の活躍で、ようやくここにきて国民的ヒーローの誕生と言うことができよう。

 そう言えば、政界の日本シリーズと言われた先の衆議院総選挙も、二大スターの激突であった。橋本龍太郎と小沢一郎の同根対決(共に旧田中派を経て経世会出身、竹下登氏の弟子)は、テレビ桟敷(さじき)の有権者の関心を大いに盛りあげたのは言うまでもない。互いに意識しあい、敵意むき出しに、さりとて正々堂々と闘うからこそ、大衆はその活力に魅(ひ)きこまれて行くのである。

 この句は「真っ青に澄み切った秋空に、天高く、まるで空を二つに割るように椎の大木がそびえ立っている」という意味。

 共生と融和を求められる現代。せめてスポーツ界だけは、空を真っ二つに割るような火花散る争いを見せ続けてほしい。その代表格として、松井選手とイチロー選手に寄せる期待は大きい。


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