馳浩の古典こらむ

 身をすてて
 又身をすてよ 身をすてよ
 すてたるわがみ うかむせもなく 

 木喰上人五行
1718〜1810


 プロ野球。今年のセ・リーグのペナントレースは、大激戦の末、巨人が優勝した。

 長嶋監督の言葉を借りるならばまさしくメークドラマ。筋書きのないドラマが展開された。中でも特筆すべきは、中日ドラゴンズの粘り腰に尽きる。プロ野球ファンのほとんどが2年前の10月8日のことを覚えておいでであろう。あの、最終戦での直接対決で巨人が優勝を決めたナゴヤ球場での試合である。

 あの修羅場が、今年の中日の強さを産んだと私は思う。巨人にマジックが点灯し、一試合でも中日が敗れれば巨人が優勝してしまう状況になった時の中日ナインのがんばりは、神がかりでさえあった。決して一球をも無駄にはしない緊張感は、観(み)る者を熱くさせた。

 私は根っからの巨人ファンであるが、この中日の粘りに対しては称賛の拍手を送っていた一人でもある。言うなれば捨て身の玉砕戦。

 人間は、とかく身を捨てることを恐れる。身は捨てたとしてもその代償を求め、最後の勝利を得ようとする。『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある』という言い方も俗世間のことわざ。しかし、今年の中日のがんばりは、まさにこの歌のよう。「身を捨て、身を捨て、さらに身を捨てる。そうすれば悟りを開く。決して浮かぶ瀬があってはならない」

 なんと自己に厳しいストイック(禁欲的)な教えではなかろうか。行き倒れることをも厭(いと)わぬ生きる姿勢こそが、真の悟りの境地であることを教えてくれた中日ナインに学びたい。


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