馳浩の古典こらむ

 明日よりの
 後のよすがは いさ知らず
 今日のひと日は 酔ひにけらしも

  良寛
1758〜1831


 アトランタ五輪が数々の感動ドラマと共に閉会した。オリンピックに出場するほどのスポーツ選手は、青春のほとんどを犠牲にしている。

 時間も、お金も、人間関係も。何よりも生活のすべてがトレーニングと試合中心に組み立てられている。

 勝って、メダルが得られれば、それで良い。

 流した汗の代償は、名誉と報償金によって少しは報いられるだろうから。しかしそれもほんの一瞬の事件として扱われるだけであって、人生の大切な一時期を競技ひとすじに生きたにしては、割の合わない結末を迎えることになる。

 なぜなら、名誉はいつしか記憶の彼方に追いやられて忘れ去られてしまうことは多くの例が示している。お金にしたところで、その場しのぎの金額でしかなく、それで一生の生計を立てられるはずもない。

 と考えてみると、マスコミの過剰報道もずいぶん罪づくりであると言わざるを得ない。

 まさしく、勝てば官軍、負ければ賊軍。

 この歌の意味は「明日からはどう生活していったら良いか、定収入を持たぬ身としてはわからない。ともあれ今日一日だけは楽しみ、酒に酔っていたい。それでよい。」

 オリンピックの舞台における日本人選手の活躍が、国民に大きな活力を与えてくれるのはまぎれもない事実。ならば、スポーツ選手の犠牲に応(こた)えるだけの我々(われわれ)国民の側からの支援策も、真剣に考えられなければなるまい。

 何はともあれ、有森裕子さんや田村亮子さんらの活躍に、感謝したい。健闘をありがとう。

 
[戻る]