馳浩の古典こらむ

 人をそしる             
 心をすて
 豆の皮むく

尾崎 放哉
1885〜1926


 桃源社の佐佐木吉之助社長。住専から融資を受けたにもかかわらず、巨額の負債を抱えていて借りた金を返せずにいる不動産業界の代表的人物。彼の参議院予算委員会における証人喚問での答弁を聞いていて、腹を立てた国民は多かったのではなかろうか。

 「あの(バブル全盛の)時代に、あの政策(土地投機に対する融資規制=総量規制のこと)では、ナポレオンでさえうまくやっていけなかったでしょう」

 言うに事欠いて、自社の経営責任をナポレオンを引用してまで自己弁護しようとするその無責任な姿勢。一体誰(だれ)の会社だと思っているのだろうか。

 私たちは、日本という国の一員として、それぞれが大なり小なりの責任を負いながら社会生活をすごしている。将来の目測を見誤ってしまうことは往々にしてある。しかし、結果責任を踏まえてこそ、次の一歩が見えてくるのである。それを言い逃れようとする態度では、とても経営者や指導者としての器ではない。尾崎放哉は、弱肉強食の社会のあり方に背を向けた孤独と寂寥(せきりょう)の俳人。人間嫌いでもあった。

 この句は「他人が悪い、他人をそしる心を捨て、ひたすら豆の皮をむき、自我に没頭する」つまり、自分の心の底にある、自分は正しいのに、という自己弁護の心を捨て去りたい、という意味。

 佐佐木社長をはじめ、住専に群がった恥しらずの人たちには、ひたすら豆の皮をむきながらの反省を促したい。


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