馳浩の古典こらむ

 人知れず
 絶えなましかば わびつつも
 無き名ぞとだに 言はましものを

伊勢
生没年不詳
古今和歌集 恋歌五


 ダイアナ妃が離婚声明を発表し、英国王室ばかりでなく世界中のマスコミに激震を与えた。「またか」という声もあり「やっぱり」という声もある。
 夫婦間のことではありがちな別れ話も、人の口に上ることによって既成事実がつみ重なり、ついには後戻りできないところまで追い込まれてしまった、と分析するのは私の勝手な解釈だろうか。立場上、許されない領域に、チャールズ皇太子とダイアナ妃は踏みこんでしまった。彼女の離婚声明に対して沈黙を貫き通しているチャールズ皇太子の心中はいかばかりぞ。男は黙って・・・か。
 英国民も、「国の恥」と言う人もいれば、「マスコミの過剰報道」とマスコミの世論主導に危ぐする人もいる。私生活をここまで暴露されて、やりきれない思いでいるのは当の2人ばかりではない、ということだろう。いつか我が身にもふりかかる問題なのだ。

 さて、この歌は、まさしくダイアナ妃の心中を表現(代弁)している。
 「私たちの仲がせめて人に知れないうちに自然に切れていったであろうならば、悲しみながらも『あれは事実無根の評判だったのよ』と言いたかったものを(人に知られてしまったばっかりに・・・」

 いったん人のうわさになった後で破局に至った恋の、悲しい身の上を詠んでいる。
 マスコミに言いたい。男女の仲のせんさくはよいが、2人の子どもに配慮した報道を。子どもはいつも被害者だから。


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