馳浩の古典こらむ

 秋風や             
 家さえ持たぬ
 大男

小林一茶
1763〜1827
文化句帖


 人生の転機とは、思わぬ時に訪れる。
 ほんの6カ月前までは、プロレスラーとしてリング上を暴れ回っていた私も、気がつけば永田町の赤いじゅうたんの上。
 タイツとシューズからスーツと革靴の毎日。
 毎朝8時から勉強会に出席し、夜は誘われるままに会合の連続。妻の待つ家に帰るのも午前サマ。本会議では、閣僚から目と鼻の先の前列に議席があり、四六時中監視されている気分。ウトウトと居眠りしている暇もない。
 議員会館の専用の事務所に戻れば、陳情や要望、そして取材の嵐。参議院は6年という任期があるだけに、もっとゆとりがあるかと構えていた私が甘かった。政治家は24時間勤務。
 加えて金帰火来(きんきからい)。
 東京での日程を片付け選挙区である石川県に戻るのが金曜日の最終便の飛行機。週末は記念式典へ出席したり、支援者や後援企業へとあいさつまわりをして東京に戻るのが月曜日の夜行列車。早朝上野駅に到着し、そのまま議員会館へ直行。
 ガタゴト揺れる夜行列車の中が唯一の私の時間。電話も掛って来ないし、陳情もない。
 資料に目を通し、ビールをぐいっとあおる。そして寝つきのすいみん薬に一茶の句集を開く。心休めるはずの句集と思いきや、こんな句が。まさしく、私は「家さへ持たぬ大男」。二日と同じ寝ぐらに帰ることのない大男に、秋風は冷たい。女房の「たまには家でごはん食べてよね」の一言がさらに追い打ちをかける・・・

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