馳浩の古典こらむ

 黒髪に
 白髪交じり 老ゆるまで
 かかる恋には いまだ逢はなくに

大伴坂上郎女 おおとものさかのうえのいらつめ
生没年未詳『万葉集』 巻四 五六三


 姉さん女房がブームとか。
 なるほど。チヤホヤしないと機嫌をそこねてしまう小娘とつき合うよりは、酸いも甘いもかみしめている年上女性の方が、世のマザコン男にとっては好都合。
 この歌は、作者の三十代半ばの作。
 郎女が、兄大伴旅人に呼ばれて九州に行った時に、宴席で戯れに作った歌といわれている。
 老女のことを歌っているが、実際にその時の郎女はまだ「現役」バリバリなのであるから、半分からかいの意味も含まれていよう。

 「この老いの身になって、こんな恋をするはめになってしまって」という歌意。

 そこで思い出したのが、小宮悦子さん。
 金も名誉も地位も知恵も(ついでに美貌(びぼう)も)あるこの才女が選んだ男性は、九歳年下のディレクター。
 ふだんは生まじめにニュースを読んでいる彼女も、結婚発表記者会見の時は、まるで十代の娘のように紅潮した笑顔で「年下の夫」のことを話していた。
 お姐(ねえ)さまの貫禄十分のようでもあり、嬉(うれ)し恥ずかしのようでもあり、の印象だった。
 それにしても。恋のリードも女性の方に実権が移ってしまったようで、男性陣にとっては嘆かわしい限り。
 とは言うものの、かく言う私の女房も、年上なので大きな顔はできない が・・・


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