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(99年 5月31日 「しんぶん 赤旗」)


ニュースの視点

「医療事故どう防ぐ」

患者の安全を守るために

江尻 尚子



 神奈川県・横浜市立大学 付属病院の手術患者の取り 違え事故や、都立広尾病院 で血液凝固阻止剤と消毒液 を取り違えて注射し死亡し た事故など、人命にかかわ る医療事故の報道があいつ いでいます。医療の現場で は事故に至らないまでも、 ″ヒヤリ″ ″ハッ″とする 「ニアミス」が数多くある のも現実です。
 日本医労連(日本医療労 働組合連合会)は、国民の 医療・看護をになう医療労 働組合としてこれを重大な 問題としてうけとめ、「医 療・看護事故の再発防止の ための緊急提言」を発表し、 そのとりくみをよびかける とともに、厚生省にたいし て要請書を提出しました。


看護婦一人で 二人分の仕事

 提言を発表して以降、各 地で医療事故防止のための 学習会やアンケ−ト活動が ひろがり、各病院ではリス クマネジメントの学習会が おこなわれたり、マニュア ルの見直し、輸血の確認を 複数でおこなう、薬物と注 射液の容器や色の区別をす るなど、日常業務の点検・ 改善のとりくみがすすめら れています。
 同時に、現場の看護婦か らは、このような医療事故 やニアミスが起きる原因や 背景について、最近のめま ぐるしい医療技術の発達に ともない、医療行為や看護 行為は年々複雑・高度化し ており、それにたいする看 護婦の人員配置が増やされ ていない、医療費削減政策 がおしすすめられるなか で、病院経営者が経営効率、 業務効率優先に走り、患者 の安全や職員の健康を軽視 せざるをえなくさせられて いる、看護婦は人手不足の なかで一人で二人分の仕事 をおしつけられて、そのな かでも事故を起こさないよ う必死で働かざるをえな い、と訴えが起きています。
 東京医療関連労働組合協 議会と看護婦の要求実現め ざす静岡県連絡会が、それ ぞれ「医療事故に関する看 護婦アンケート」を実施し たところ、両者とも九割の 看護婦が「これまでミスや ニアミスを起こしたことが ある」と回答。東京の調査 では八割以上が「毎日の業 務が多い」と回答。静岡の 調査では「事故防止策」に ついて、「確認を十分に」 (五〇%)、「ゆとり」 (四 一%)、「増員」 二五%) と回答しています。
 さらに深夜・交代制労働 による慢性疲労とストレス の増大が、看護婦自身の健 康と安全を侵している深刻 な実態があります。日本医 労連の看護婦の夜勤実態調 査(九八年)では、百床あ たりの看護婦数は四六・七 人、一カ月の夜勤日数は平 均七・六五日ですが、九二 年に制定された看護婦確保 法「基本方針」で規制され ている「月八日以内」の夜 勤には二三・七%が到達し ていません。
 九六年の「医療労働者の 労働・健康実態調査」では、 看護婦の八割が「慢性疲労」 を訴え、二人に一人が仕事 に「重いストレス」を感じ、 八割が「仕事を辞めたいと 思う」と答えるなど、看護 婦の労働は厳しいもので す。実際、日本の医療・看 護婦体制を欧米と比較する と、欧米では医師が日本の 三倍から五倍、看護婦は一 ・五倍から五倍など格段の 差があり、この面での増員 は緊急の課題となっていま す。


医療本来の 使命を果たせ

日本医労連の「緊急提言」 ではこの現実の問題を重視 し、その第一に、医療従事 者の適切な人員配置を医療 法や診療報酬で保障するこ と、看護婦については現在 の倍の二百万人体制にする ことをかかげました。第二 に、国・自治体・関係者が 協力して事故防止の対策を 確立し情報を国民に公開す ること、事故防止のための 条件整備、教育の充実を図 ること。第三に、医療機関 に事故防止委員会などの設置を義務づけることなどで す。国や自治体と医療機関 それぞれの責任を明らかに し、それが確実に実効をあ げうる医療提供体制や医療 保健制度の整備をもとめま した。
 厚生省も、五月十二日、 「患者誤認事故防止方策に 関する検討会」が提言を発 表し、各病院に事故防止委 員会の設置、職員への研修、 事故にかんする情報収集・ 分析、マニュアル作成など を指摘しました。しかし、 看護婦などの人員について は「適正な配置」というだ けで、具体的な言及はあり ません。
 患者の安全を守るには、 医療の担い手の心身ともの 安全が保障されなければな りません。いま必要なこと は、事故防止のための対策 を強化するとともに、それ が実効をあげうるような条 件整備が必要です。
 そのためには医療費抑制 政策をやめ、必要な財政措 置をはかり、人員配置基準 の改正や、診療報酬の改善、 看護婦の夜勤・労働条件の 改善などが必要です。そし て、そのために医療従事者 全体のチームワークで患者 の生命を守るという使命が 果たせるような関係者の努 力も求められます。

 (えじり ひさこ・  日本医療労働組合連合会  中央執行委員長)



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