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  • (98年 9月 11日付「民医連新聞」)


    相談室日誌 「連載 15」


    「病気でない」と生保申請却下

    小茶 幸恵(神奈川・川崎共同病院)

     長引く不況で、失業率が戦後最高を記録する中、仕事がなく、収入がないため、具合が悪くても病院にかかれないと相談に来るケースが増えています。
     その多くの人は、我慢できなくなるまで病気を隠して生活し、受診すると、早急に入院が必要な病状という状況です。そして川崎の土地柄からか、単身、日雇いで保障のない生活を送っている人が多く、面接の末、生活保護の申請となります。七月から相談業務を始めたばかりという新人ワーカーの私も、一カ月だけで六人の申請に関わりました。
     ところで、生活保護の申請は、国民の権利であると、憲法二五条で保障されてはいるものの、実際はなかなか認めてもらえません。
     ただの失業というのではなく、病気によって働けないという理由がとても重要な要素となるのです。失業して、生活できず、病院にもかかれない人が、病名をつけてもらうために相談室に来るということもありました。本当に困っている人に対し、福祉事務所は、「病気がひどくないからまだ働ける」など、相談だけで申請をうけつけない実態があります。
     最近受けたケースで、病気になって本当によかったと話す五五歳の単身男性がいました。Tさんはアーク溶接、ステンレス綱熔接の技術をもつ肉体労働者です。なかなか仕事がなく、ようやくみつけた仕事の健康診断で、結核の疑いを指摘され、入社が不可能となりました。そして、貯金も身よりもなく、病気と診療代の怖さのため、病院にかかられず、一カ月半の間、部屋の中でもんもんと過ごし ていました。思い菰まって白役未遂までしたそうです。しかしその後、意を決して病院にくるやいなや、結核、糖尿病、肝障害ということで即日入院。生活保護となりました。
     Tさんは言います。「友人から、お前は入院できてよかったなと言われたけど、本当にそう思うよ。今の世の中じゃ」。彼の友人たちは、なんとか体は元気でも、仕事がなく毎日苦しい生活を強いられているそうです。病気になって初めて成り立つ、保障された生活が、ここにはあるということを認識させられました。




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