三上 満
1932年東京生まれ。1955年東京大学教育学部 卒業。
東京都の公立中学校教諭を経て都教組委員長、 全教委員長、全労連議長歴任。現在、子どもと教育・ 文化を守る国民会議代表委員
主な著書『かぎりなく愛しいもの』『思春期と非行問題』『教師への伝言』(以上、新日本出版社)『歴史のリレーランナーたちへ』(旬報社)『眠れぬ夜の教師のために』(大月書店)など多数
子どももふ<めた三分間リレースピーチとともに、子どもと教育・文化を守る国民会議代表委員の三上満先生の、「いまを生きる子どもたちへ」と廣する講演がありました。
その要旨(文責編集部)と、参加者の感想を紹介します。
私の大好きな言葉に「わが子を幸せにしたいと思ったら、まず親自身が幸せになることだ」というのがあります。
いまの子どもたちのことを考えるとき、子どものことだけを考えるのではなく、大人の生き方や世の中のあり方をしっかり考えていかなければ、子どもたちの心に希望の灯をともすことはできないと思います。
毎日新聞に、女子中学生の投書がのっていました。校舎落成式の来賓の祝辞に、「私たちのがんばりを期待する言葉が多かった。ならば私たちはどうすればよいのか。政治家になって、いろいろな人から多額のお金をもらえばよいのか。大蔵省に入って汚職をすればよいのか。習字はお手本がうまくないと、うまい字はかけない。今の日本の社会は、私たちにとってまさに最悪の手本だといえよう」と書かれていました。
このように、子どもたちは政治や社会に敏感です。
持ち味出しあい、力あわせ
先の参議院選挙の結果は、「国民は賢いし、二十一世紀をこのままの状態ではすごさせないよ」との意志表示だったと思います。子どもたちは大人、とりわけ親とか先生の姿をよく見ていて、それらを通して、自分たちの将来が本当に希望があるのか一生懸命考え、判断しようとしています。
子どもたちが作った川柳に、〃忙しいその一言でパパ逃げる””気持ちよく家事をする母まだ見ない”などがあります。
いま労働法制改悪が大問題になっています。忙しいときはうんと働き、暇なときは少なく働き、それを相殺して残業手当は払わない−こんな労働形態や、派遣事業の自由化などが出ています。だから人間らしさを求めてあちこちで声を上げなければ、子どもたちを健やかに育てていけないのです。
”幸せ”とは何か何も心配もないルンルン気分のことか。困ったり悩んだり、腹の立つことを抱えたりしながら、私たちは生きています。そういう中にこそ、本物の幸せはあると思います。
人間は長い歴史の中で人間性というものを、豊かにしてきました。それを完全に身にけることは大変です。私のいいところは頼まれるといやと言えないこと。早い話が軽はずみ、でも軽はずみだから積極性があるわけです。慎重で考え探い人にあこがれますが、「でもこのおれは、これでいいのではないのか」とも思っています。
いろいろな人たちが持ち味を出し合って、何かすばらしいことを目的にして、力をあわせて活動しているときが、人間の一番楽しいときではないでしょうか。
人を愛せた私っていいね
子どもだってそういう目で見てやらないとうかばれませんね。
ところで人間の核心部分をたどると、「自分が好き」ということだと思います。人を愛すると「人を愛せた私っていいわね」と、自分への愛となって、利息をつけて戻ってくるものです。人への愛と自分への愛が響きあいながら、らせん階段を上っていく。これを〃愛のらせん階段”と私は呼んでいます。これが幸せの種だと思います。
子どもに、人生ってまんざらではないことを見せていく必要があります。でも時には、自分に腹がたつこともありますね。自己嫌悪に陥ることもありますが、人間らしい人間こそ陥るのです。映画の「寅さん」は、いつも後悔していましたよね。さくらの夫の博が「自分の醜さに苦しんでいる人間は、もう醜くないですよ」といっていますが、名台詞です。
ところでいまの子どもたちのおかれている状況は、一言で言えば、神戸の少年の言った〃透明なぼく〃。「自分が自分らしく生きられない」、「生きる値打ちがないぼく」。それでは人間として耐えられないとあの子は、力で他人の命を支配しようとしました。
「生きる値打ちがない」と言わせるような世の中が、子どもの言葉を通して映し出されていると思います。
いま教育を子どもたちが自分のよさを発見して、希望を育んでいくものに変えていくためには、四つの改革が必要です。
@は小学校入学の敷居をうんと低くすること。学校にくるまではうんと遊び、はいってからはたくさんのことを教えない。
Aは先生にゆとりと自由、学校に民主主義を、
Bはそのためにも三十人学級に、
Cは高校希望者全員が入学できる制度で
その実現のためにも政治の根本をあらためていかねばなりません。そして、私たちがより良い世の中のために努力している姿をこどもたちにしっかり見せることが、「わが子を幸せにしようと思ったら、親自身が幸せになること」の実践だと思います。
希望がもてる
深谷多貴子
三上先生は、自分が今の方向を選ぶときに、きっかけとなったような方でした。今回はさらに、自分の人生をふり返ってすすんでいけるような温かいお話でした。
人生ってまんざらではないと思わせてくれるお話や、二十一世紀を展望した希望のもてる話、グッドでした。
心が軽くなる
石堂祐子
不登校の中二(男子)の母です。先生のお話で、この子とどうつきあっていくかで悩んでいた時でしたので、ずい分心が軽くなりました。
私自身も幸せな気持ちで日びをすごし、子どもにゆとりをもって接していけば、子どもにもきっと幸せな人生が待っているんだなあと、確信しました。
展望を知る
熊沢正人
三上さんの話は、いつも元気を与えてくれます。いろいろと大変な現実がありますが、それを乗りこえる力と展望を知ることができました。
未来が明るく
斉藤英子
話を聞いて、すっごく明るい未来がみえたという思いになれ、やっぱり人間はすばらしいとしみじみ感じました。