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「北陸中日新聞」1999年 4月 23日(金曜日)「社説」



   

   看護の質を向上させるには

   准看問題

一質の高い看護を確保するためには、看護婦養成制度の 改革が急務である。准看から正看への「移行教育」は、准看の新規養成の停止を前提にしたうえで行うべきである。  

 日本の看護婦(士)制度は、知事免 許の准看護婦(准看)と、厚生大臣免 許の看護婦(正看)の二本立てで、教 育課程が大きく違う。 

 その准看に対して、就業年数が十年 以上の場合に限り、就業の継続を前提 にしたうえ、再教育の機会を提供し、 正看の国家試験の受験資格を与える 「移行教育」の実施を厚生省の検討会 が初めて打ち出した。 

 このこと自体は歓迎したい。という のも、就業の長い准看の中には、家庭 の事情などで正看になるための二年課 程への進学を断念した者が少なくない とみられるからである。 

 だが、今回の「移行教育」は、准看 の新規養成の停止時期を明確にしたう えで行うことを打ち出せなかったとい う点で、大きな課題を残した。その責 任は、ひとえに日本医師会にある。 

 「移行教育」は、一九九六年十二月 に厚生省検討会がまとめた「二十一世 紀初頭の早い段階をめどに、看護婦養 成制度の統合に努める」とした報告書 の中で提言されたもので、報告書の趣 旨からして、准看の新規養成の停止と 表裏一体であることは明らかである。 医師会は、報告書の段階で賛成しなが らその後、態度を翻した経緯がある。 

 今回の「移行教育」は、五年間の時 限措置であり、その間に就業経験が十 年に満たない准看は対象にならない。 准看養成制度がある限り、今後も次々 と対象外の准看が生まれてくる。 

 こうした問題を解決すると同時に、 今後ますます求められる質の高い看護 を実現していくには、准看の新規養成 を停止したうえで、能力と意欲のある 准看には必要な教育を施し、正看への 道を開くのが筋だろう。 

 医師会は、准看養成制度の維持を主 張する理由の一つとして、正看は地域 への「定着性」が悪いことをあげる。 だが、それは過疎地域に医師がこない からといって医師採用の条件を下げて もいいというのと同じで、本末転倒で ある。「定着性」を望むならば、待遇 を改善すれば済むことである。 

 欧米のように看護業務が明確に分離 されていない日本で、看護婦の資格の 二重構造を維持することは、結局、看 護婦全体の地位を下げる方向に働く。 医師会の主張は、それを利用して、低 賃金での雇用を継続しようとしている とみられても仕方がないだろう。 

 医師の卒業後二年間の臨床研修を必 修化し、教育期間を現行の六年間から 八年に延長することがほぼ決まり、薬 剤師の教育期間も六年に延長する動き がある。同じ医療の一翼を担う看護の 分野においてだけ、ほぼ半世紀前に設 けられた就業年数二年の准看養成制度 をそのまま維持すべきだとの主張は、 看護の専門性を否定したもので、あま りにも時代錯誤で説得力に欠ける。 

 准看養成制度はすでに、歴史的役割 を終えたといえる。医師会は、早く目 を覚ますべきだ。  



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