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「全国商工新聞」 1998年9月14日(月曜日)(全国商工団体連合会発行)


   経営者よ不渡りを恐れるな   
   「借金地獄」高利商工ローンとシステム金融   
 

 

弁護士  木村 達也




なぜ高利商工ローンに手をだすか  

 中小零細事業者がこの不況の中にどれだけ日々の資金繰りに窮し、銀行の貸し渋りに苦しんでいるか、よく知っているつもりだ。  特に金融機関の冷たい仕打ちや過大な追加担保の要求などには怒りを覚える。  また制度融資もその申し込み手続きが煩雑で時間と費用がかかり過ぎる。  こうした中で、高利商工ローンは中小企業に連日、ダイレクトメールやファクス、あるいは電話で甘い融資勧誘をおこなう。「当社で手形割引をしてくれませんか」「つなぎ資金に二〜三百万円使ってくれませんか」「当方は手形だけで担保や保証人は不要ですよ」−−−こんな甘いささやきは「高利貸しで借りたらおしまいだ」と考えて耐えてきた経営者の心を揺さぶる。  そしてたいていの経営者は、「不渡りか高利の借金か」の二者択一を迫られたとき、「背には腹は代えられぬ、一カ月だけ借りよう」と自らを慰めて高利金融に手を出してしまう。


高利商工口−ンの怖い手口  

 高利商工ローンは、電話では「すぐお貸します」「金利は一七%から二二%こ「無担保・無保証人で融資」するかのように話すが、現実には、申し込んでもなかなか貸してくれず借主を焦らせる。  借り主があせると、四〇%近い高金利も借り主はやむなく飲むし、連帯保証人や過大な担保の要求も 飲む。約束が違うと断る余裕がないからである。  商工ローンが一般的に使っている契約書や債権回収のため借り主や連帯保証人から徴収する書類の文書を見ると恐ろしくなる。  例えば、金銭消費貸借公正証書や抵当権・代物弁済設定契約登記の委任状は全くの白地で取るし、債権譲渡通知書や、いつでも業者が借り主の家屋や店舗内に立ち入り什器備品を搬出できる委任状も取る。  借り主の夜逃げを想定して借用書には借り主や連帯保証人の戸籍謄本、住民票などを戸籍課に交付申請できる代理権まで取ってしまう。  商工ローン業者は「高利は貸し主から、元金は連帯保証人から徴収する」と考えているから、三百〜五百万円に一人の割合で必ず連帯保証人を取る。  身内を数人達帯保証人に取っておくと借り主は自己破産できないことを知っている。  借り主が不渡りを出したときの高利商工ローンの峻烈(しゅんれつ)・苛酷な取り立ては言わずもがなである。ところが経営者の中にはこれを甘く考えていて、業者に監禁状態にされて弁護士への連絡もとれなくなってしまう人もいる。


 暗躍するシステム金融  

 高利商工ローンの利用者リストが暴力団系のヤミ金融業者に流れ、彼らはこの、リストを利用して倒産の危機に瀕(ひん)した借り主に、月五〇%以上の高利での融資をおこなう。  ここでも経営者は不渡りよりも高利にすがる。  この違法金融からの脱出は弁護士に相談するしかないのであるが、不渡りと暴力を恐れてひたすら返済のため借金を重ね、アリ地獄におちいる。  しかし年六〇〇%もの高利を取るシステム金融からの借金には倒産しかないのである。  長年蓄積してきた業界での信用や実績を壊したくない、という気持ちはわかる。  しかし希望のない延命治療よりも、自ら安楽死を選ぶべきだ。  保証人、取引先、家族、従業員まで悲劇に巻き込んではいけない。自分だけが黄任をとれはいい。  それが経営者の責任だ。  日本は法治主義の社会である。手遅れになる前に自己破産をすれは、一年程度の時間の後には安定した生活が保証される。  今、経営者には高利貸しに追い回されたり、家族がはらはらになったり、離婚して債権者から迦げたり、明日の食事もできない、子どもが学校にも行けない、などという悲劇的な生活を避ける賢明さが求められている。








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