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これは、ある機会に松本直治さんが出されたお手紙が手に入ったものです。「反骨」だけではない、現実をしっかり見つめて、科学的に指摘する姿に共感を覚えた。
マスコミの現状を嗤う
松本直治

 天皇の軍隊を嗤った桐生悠々の真意を、私は天皇批判と受けとめているのだが、志賀直哉は二十三歳(千九百六年)で「なぜ天皇という妙なものが存在するのか。ましてその名のために死し、そのために税を納める。何のことか少しも解らぬ」と誌している。
 また、明治天皇暗殺を謀ったとする幸徳秋水の”大逆事件”を知った石川啄木は、石をもてふるさとを追われた薄命の歌人だけに衝撃は強烈で、「赤紙の表紙手擦れし国禁のふみを行李の底にさがす日」とか「議会を罵りつつ涙出でたり」とうたいあげ、国家権力による冷酷な支配や重税と国民の盲従を嘆いた。
 志賀直哉、幸徳秋水、石川啄木、彼らは年齢に差こそあれ、共に同じ時代を生きた人たちであり、桐生悠々もまた然りである。


 さて、あれは二・二六事件の頃であったと思う。当時私は、金沢市役所に勤めていた。机を並べていた巡査上がりの老史員に、「上京して新聞記者になる。兵隊のがれに、うまく行けば特派員になれば儲けものだしね」と笑いながら言った。兵隊のがれにマスコミに転身するのは私に限ったことでなく、俳優の森繁久弥も同様だ。彼が早大を中退、NHKへ身を寄せ、チチハルへ特派された動機も同じだった。
 ところで、その老史員の話しだが、彼はいきなり「桐生悠々を知っているかな。私といささか関係がある」と言った。というのは、悠々が東大で学ぶにあたって、身内に巡査になって学費を若干扶けていたのがいたことによると語ってくれた。私が桐生悠々の名を知ったのは、この時のことである。
 悠々は、満州事変の真っ最中に軍部に抵抗して信州毎日に『陸軍関東防空大演習を嗤ふ』という大胆な社説を書いて追われたが、そういう反骨精神を貫くジャーナリストは稀だと教えてくれたわけで、以来私は、この人物に興味を抱いてきた。
 さらに、ついでだと、老史員は「記者心得」として『五セル』なる事柄を教えてくれた。ポンポンとナタ豆キセルを叩き、なでしこ(キザミみ煙草の名)を詰めながら煙をふかし、次のように説明した。つまり五セルとは、呑まセル(酒)、食わセル(ご馳走)、抱かセル(女)、握らセル(カネ)、持たセル(オダテ)である。 私の半世紀にわたる新聞生活で、インタビューは一国の首相から外国使臣、橋の下の靴磨きのおばさんにまで及ぶし、一期一会で何千人にあったか数え切れないし、ジャーナリストとのつき合いも広範になるが、一貫して終生にわたって抵抗した人物は寡聞にして知らない。どこかで何らかの形で、栄光と挫折の繰り返しの人生を送っている。それでもマスコミは、若者の就職希望のトップを走っているからおもしろい。古い言葉で言えば、「無冠の帝王」、「社会の木鐸」が魅力なのであろう。”一億総書きますわよ”の時代にあってはなさらのことだ。
 だが、現実はどうか。「書きたいが、書かせない」であり、「書かない」ことでもある。若者の正義感はいつしか失われ、自らは動かぬ「精神衰弱者」になっている。これは明らかに、マスコミの敗退を意味する。しかし経営者たちがそう思っていないところに、悲劇の芽がある。私はそれが、情けないのである。
 現在のジャーナリズムをみるに新聞に踊るのは膨大なスペースのグラビア雑誌顔負けのカラー広告。主張は、「公器」という前論で批判性に欠け、リゾートに努力を惜しまない。「地球まるごと汚染」の先頭に立つ。私は今世紀最大の社会問題は「安心して子も産めない」という原発問題だと思っているが、ここではゴルフ場問題を取り上げたい。


 この狭い国土でゴルフ場だらけだが、ゴルフは会員権制で建設に百億円かけても会員権で二百億円稼ぐから、地方新聞社もこれに乗り、ゴルフ場を経営しない新聞社は皆無だ。大衆スポーツなどと放言するが、何千万円ものゴルフ権がどうして大衆スポーツなのか。いま全国で二千コースあるが、今世紀末には三千コースにふくれる。山や森林、農地の自然を破壊し、「地域開発だ」「過疎対策だ」と弁明するが、大会社の税金のがれや政治献金、賄賂の温床になっている。自民党国会議員百六十七名がこのゴルフ産業推進の会メンバーであることでも、それが判る。
 関西水系連絡会代表の山田国広の『ゴルフ場亡国論』によれば、大量に使用される土壌製剤、芝生の緑の調整剤、殺虫剤、化学肥料が田や畑、溜め池、河川、湖、ダムへ流れ込み、人畜に物凄い影響を与えているという。ゴルフ場に散布される殺虫剤の三十三.五%が空中に、残りの十三.五%が周囲の樹林、植物、五十三%が土に残留。一年間に約二トンの殺虫剤が一ゴルフ場に撒かれる、この公害。これでは新聞社は、正義の集団ではなく、犯罪者の集団ではないか。


 湾岸戦争に触れると、醜いアメリカの顔が浮かぶし、これに協力している経済大国日本の顔も浮かぶ。朝鮮戦争では十五トン、ベトナム戦争では六十トン、イラク攻撃では三百六十トンの火薬が使われたが、米軍はすべて沖縄、岩国、呉、佐世保、横須賀、などの米軍基地から出動している。日本に基地がなかったら、湾岸戦争は不可能だった。石油欲しさにアメリカという戦争マシーンに食らいついて大儲けした点で日本はやはり世界一ずるくて汚い国であり、平和国家の資格はない。
 だいたいクエートは英米が擁立した国で、百七十万人口のうち九十七%が外国人労働者で、一握りの王族が国を動かし”黄金の風呂”につかっている呆れた国だが、要するに、アメリカが世界の憲兵である地位を失ったら、日本は危機に瀕するというわけ。だから、日本の新聞報道ばかり信じていては、国民は「メクラ」になる。ここでもマスコミは罪を犯しており、政府の代弁者に過ぎない。外務省に踊らされて邦人の危機を報ずるだけが、ジャーナリストの役目ではあるまい。憲法で戦争の放棄をした国のジャーナリズムは、自らをきびしく律すべきだと私は思う。


 私の知っている七人の女子大生グループに訊いたことがある。「いま日本最大のタレントは誰か、アイドルといってもいいが」と質問したら、「紀子」という答が返ってきて驚いた。驚いたというより、我が意を得たりというのが、偽らない私の感懐である。第二の質問で、「紀子はシンデレラか、人身供養か」はふたつに割れたが、私は後者だと思う。天皇家の次男坊に惚れられた大学教授の娘が、皇族の一員となって選挙権を失っている。
 虫も殺さぬ顔をした「世界的生物学者」で、戦争責任がありながらマッカーサーの占領政策により「象徴天皇」という得体の知れぬカオスとなり、ゲ血、ゲ血の珍語、百億の血税で葬られた「昭和天皇」。その子アキヒトは大嘗祭で神となり、その息子の新妻が紀子。妊娠でふくれたお腹(ナカ)を水玉模様のワンピースで包んでの地方巡業。可憐なだけに、痛々しい。これはまさしく人身供養の姿ではないか。
 ついでに言えば、教育の現場は日の丸、君が代の義務化に揺れている。その提灯持ちが、NHK。ゲジ島が去っても、毎夜テレビで日の丸がスクリーンいっぱいで、君が代のメロディが流れる。私なら、「民が代・・・・」といきたい。反対すれば組織からはみ出るから黙って従う、モヤシのような教師群。マスコミ界も同然で、反発して左遷された記者も少なくない。私は声を大にして叫びたい、「第二の桐生悠々よ、出よ」と。それともやっぱり、「マスコミは死んだ」のであろうか。
(富山市在住・コラムニスト)

★ 元北日本新聞社編集局長・取締役・現相談役。『原発死』『火の墓標』など反原発の著者として知られる。

 日本軍の中国侵略戦争に抵抗、???(点珠澂?)攻撃の直前に(焼死?)した、反戦ジャーナリスト桐生悠々、その生誕の地金沢在住の、朝・毎・読・中日の若手記者に金大教授が加わって、桐生悠々に関する小冊子を発刊、私も乞われて一筆。 御笑覧のうえ御意見願えれば幸いです。
  松本直治 七十九歳

金沢 助さん
 元気に(・・?) 暑いので叶いません、どうかお互い長生きしませんとネ。  斗いはこれからです。
     



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