羽咋市本町からこの松ヶ下町に羽咋白百合幼稚園が移転してきて、
   今度の六月でちょうど3年になります。

今回卒業のばらぐみさんは、入園してきたすみれぐみ時代を2ヶ月間本町の園舎で過ごし、ようやく本町の園舎に慣れてきた頃に、この松ヶ下町の園舎にお引っ越しをしてきたのでした。一つの園舎にようやく慣れてきたのに、また新しい園舎に慣れなくてはいけない。ちょっとかわいそうなことをしたかなぁとは思ったのでしたが、新しい園舎の探検や園庭の探検をたっぷりしてみて、この園舎がすぐに大好きになってくれた子供たちでした。

今年度も、羽咋白百合幼稚園には大きな変化がありました。
一つは隣接する旧金沢食糧事務所羽咋支所の土地と建物を取得したこと。
もう一つは、古くなっていた園庭遊具を新しいものに替えることができたことでした。
あの旧金沢食糧事務所羽咋市支所は、羽咋白百合幼稚園「子育て支援センター」
として活用することを目指して取得したものでした。防水工事を主にして、
少々の外壁塗装工事に、内装工事、そしてお掃除をして使えるようにしたのです。
使えるようにはなりましたが、エアコンは1室だけ。

あとは暖房も冷房もないのですから、使用時期や使用内容は限られます。
けれども、母の会のみなさまの活動を中心に、あれだけの空間があるのは大変幸いなことになりました。また、駐車場が常時使えるのも大変ありがたいことになったのです。

新しく入った園庭のコンパン遊具も、子供たちに気に入ってもらえたようです。
今まで使ってきた大型遊具は、子供たちのお気に入りでした。
まだまだ使えるとはいえども、いくつもサビが出ていて、
引っ越しをしてきたときからケガのないよう応急処置がされていたものでした。
なるべく早く安全な遊具に取り替えたい。

そう考えていました。隣接地の取得とあわせて物いりの時でしたけれども、
安全優先で思い切って買ったのです。

今まであった遊具を撤去したときには、子供たちに大いに叱られましたけれども、
しばらくして新しい遊具が来たら、「ありがとう」って子供たちに言ってもらえて、
園長としては涙が出るくらいに嬉しかったのです。
 
確かにたくさんの変化がありました。その一つ一つは大事なことでした。
けれども、「目的のための手段が、目的そのもの」になってはいけません。
園舎が、本町から松ヶ下町に移ったのは、
「子供たちによりよい保育を提供するため」でなければなりません。
「子育て支援センターを取得したのは、ご家庭のみなさまの応援団となるため」
でなければなりません。
「園庭の遊具を整えるのは、子供たちの遊びが広がるため」
でなければならないのです。
園舎を広くしたり、土地を持ったり、きれいな遊具をそろえることが
目的であってはならないのです。

幼稚園には教育目標があります。
子供たちに伝えなければならない事柄があります。
単に、安全で安心を提供する「子守り」をしているわけではありません。
子供たちにこの世界のことを伝え、教職員によって守られた小さな社会を提供して、
人が人として共に生きる基本を伝える場所なのです。
子供たちの成長のために、いろんな工夫をしなければならないのが幼稚園なのです。


  羽咋白百合幼稚園にも教育目標があります。
   『愛されていることを知り愛する者となるために』

私たちの、教育目標です。
教育課程の、年間総主題ともなっている『愛されていることを知り愛する者となるために』の言葉を受けて、わたしは次のように解説を書いています。
 
『幼児期に、もし最も大切なものがあるとするならば、それは「愛されている事実の実感と確認」であると言ってよいのではないかと思います。まず、おかあさんに愛され、家族に愛され、さまざまな生活の中でその愛を実感し、確認していくこと。これこそが、最も大切な幼児期の経験であると言ってよいでしょう。自分が受け入れられていること。大切な不可欠な子供として、おかあさんにも、家族にも受け入れられること、そしてこの事を実感し、確認すること。これは、愛の具体的姿として、子供達の生活に不可欠な事柄なのです。もし、子供達が、この愛の実感と確認を得られないとするならばどうでしょう。子供達は、不安のまま毎日の生活を続けることになってしまいます。不安である時、遊びにも夢中になれませんし、どんな経験にも集中できません。子供達はまず心の安定を求めて、赤ちゃんのままでいようとしてしまうのです。これでは成長はありません。「愛されている事実の実感と確認」こそ、幼児期に最も大切なものと言わなければなりません。
 
このことは幼稚園という小さな子供達の社会でも同じでなければなりません。幼稚園の先生が恐い存在であってはなりません。叱ってばかりも困ります。幼稚園の教師は、まずその前提に、子供達を愛する者でなければならないのです。
子供達にとって、「愛されている事実」を御家庭と同じ様に「実感し確認できる」教師でなければならないのです。
けれども、幼稚園は教師だけで成り立っているのではありません。子供達の小さな社会として、多くのお友達がいるところでもあります。子供達は、多くのお友達に愛されなければなりません。大切な、不可欠な子供として、お友達に受け入れられなければならないのです。幼稚園に新たに加わる新入園児達にとって、お友達に「愛されている事実の実感と確認」は何よりも必要なことと言わなければなりません。しかし、ただ愛され続けるだけでは、何の意味もないでしょう。愛は惜しみなく奪うものではなく、惜しみなく与えるものだからです。ゆりぐみさんやばらぐみさんになった時、小さなお友達を愛する心を持って欲しいと思います。同じクラスのお友達を愛する心を持って欲しいと思います。互いにゆるし合い、共に生きる子供として成長して欲しいと思います。そして大人になった時、愛を求め続ける大人ではなく、愛することのできる大人になって欲しいと思うのです。愛されている事実をたっぷりと知って、愛する勇気と力を得て欲しいと思うのです。』


羽咋白百合幼稚園が、その環境を整えるために、今までも、そしてここ数年間も、
同じように努力してきたことは、そのすべてがこの教育目標のためなのです。
子供たちに、よりよい保育と教育を提供したい。
その目的のために、その手段となる保育環境を整えてきたのです。
目的と手段が、逆になってはいけません。

お家の人や、近所のおじちゃんやおばちゃんや、親戚の人たち。
幼稚園の先生たちにもしっかり愛されてきたばらぐみさん。
そして羽咋白百合幼稚園の小さな子供たちをしっかり受け入れて、
愛することができたばらぐみさん。
小学校に行ってもその優しさを、しっかり育てていってください。
 
優しさは心の中にある大切な宝物。

でも、それは、訓練され、鍛えられて、どんどんステキなものになっていくものなのですよ。
したたかで、しなやかな優しさ。そこまで優しさを育てていってほしいと思います。
したたかでしなやかな優しさを持つときに、みんなは、
揺るぐことのない愛する者になれるでしょう。

                     ばらぐみさん。
                             卒業おめでとう。