丁度一年前の三月末日の事です。こんな事がありました。

 夕方、二人の高校生位の男の子が幼稚園の門から玄関に向かって歩いてきました。
 「どなたかしら?」と目をこらして事務室から見ていると、隣に座っていた横山ゆかり先生が「卒業生のTくんとSくんじゃない?」「懐かしい!二人とも大きくなったね」私は横山先生と一緒に二人の顔をよく見るために、玄関を出て、本人達の元に駆け寄りました。
 TくんもSくんも高校を卒業したばかりの十八歳。白百合幼稚園を卒業した、れっきとしたしらゆりっこです。
 Tくんはにっこり笑って、「明日東京に行きます。」と言ってきました。
 東京の大学に行くためにわざわざ幼稚園に挨拶をしにきてくれたのでした。
 Tくんの行く大学は体育の大学です。実はTくんは、この大学の入学試験のために、夏に白百合幼稚園の門をたたいたのでした。
Tくんに与えられた課題は『郷土芸能』だったでしょうか?郷土ってなんだろう?と考えたTくんは、幼稚園の時踊った『はまぐり音頭』を思い出し、なんと「もう一度はまぐり音頭を教えてください。」と言ってきたのでした。
 私も横山先生も、Tくんが幼稚園に来てくれた事をとても嬉しく光栄に思ったのですが、はまぐり音頭ならば、踊りの先生に教えていただけば?と思ったのです。でもせっかくきてくれたのですから、幼稚園流の元気なはまぐり音頭をTくんに伝授したのでした。

 そして、Tくんはみごと合格!夢への一歩を手に入れたのでした。
 Sくんも、「県内の大学に行きます。」と教えてくれました。
 二人の通っている高校は違いますが、でもまだ仲良しで、これから大学生になるという事を、こうして一緒に報告に来た事を話してくれました。

 幼稚園を卒業して十二年。大きくなった若者はそれはそれは輝いていました。

 後日、その子達の親御さんに会う機会があり、旅立ちの前に幼稚園に来てくれた事を話したのですが、どちらも幼稚園に行ったという事を親には話しておらず、幼稚園の先生に笑顔で明るく話しをする我が子の話しを聞いて、「家じゃそんな顔しないのにね」と、ちょっと大人になったと感じられたのか、とても喜んでおられました。
 
 
 こんな事もありました。

 幼稚園のホームページを見てくださった方から、園にメールをくださった方がいらっしゃいました。
その方は、五十年程前羽咋白百合幼稚園を卒業され、現在は東京に住まわれているYさん。男性の方でした。ホームページを見て、幼稚園の事をとても懐かしく感じてくださり、メールをしてくださったのでした。
 もちろん私は全く知らない方です。でも、白百合幼稚園の事を懐かしんでくだっている事がとても嬉しく、昔の幼稚園のアルバムを引っ張り出して、Yさんを捜しました。白百合幼稚園が今のゆりっこ児童クラブの場所にあった時代の更に前の園舎の時代。第三十三回(昭和三十六年)卒業名簿の中にYさんの名前を見つけ、歴代の白黒の卒業写真の中に、Yさんが写っているだろうと思われる写真を見つけました。
 さっそく、その写真をスキャナーで取り込み、Yさんに送信させてもらいました。
 すると、Yさんからすぐに、「写真ありがとうございます。とても懐かしく嬉しかったです。」
と返事が届きました。そして自分が写っている場所や、友達の名前、先生の名前を教えてくれました。お友達の中にはお子さんを白百合幼稚園に通わせていた私のよく知っているお父さんもいらっしゃって、とても嬉しくなりました。
 給食を作ってくださっている本吉千賀子先生も実はしらゆりっこですが、Yさんは二つ年上の方で、同じ園舎で育ったと、うっすらと思い出してくれました。

 Yさんとは、白百合幼稚園つながりで、何度かメールをするようになりました。
 そんな時Yさんが、「夏に家族で石川県に出かける事になりました。懐かしい羽咋の町によって幼稚園や高校など見てみたいと思います。」とメールがありました。
 Yさんの卒業された幼稚園の園舎はもうありませんが、その場所はとても懐かしいものでしょう。そして時間が許されるなら、羽咋白百合幼稚園の今も見ていただきたいと思い、できたらよってくださいねと連絡をしました。
 そして、八月十四日の事でした。Yさんが白百合幼稚園を訪ねてきてくださったのです。
 幼稚園の事務室で、その頃のアルバムを見、Yさんのわかる範囲で友達の名前をお聞きしました。そして、幼稚園の前で、本吉先生と私と三人で写真を撮って、しばしの間なごやかに過ごさせていただいたのでした。
TくんもSくんもYさんも、世代は全く違いますがみんなしらゆりっこです。
そんなしらゆりっこ達が、この幼稚園を懐かしんでくれます。

 Tくん。「郷土」と言ったら、幼稚園で習った踊りをイメージしてくれました。踊り事ではなく、自分の心の故郷を、幼稚園とイメージしてくれたことが嬉しいのです。

 Yさん。この幼稚園を懐かしんでくださいました。場所は違うのです。Yさんが通った幼稚園の場所に行っても幼稚園の姿も形もありません。でも、現在の羽咋白百合幼稚園に来て下さって、懐かしんで下さいました。それが嬉しいのです。
 
 共通しているのは、幼稚園に対する変わらない思いです。
 お友だちをお友だちと自覚した場所。お友だちと共に生きるためにお友だちの気持ちを考えた場所。自分の気持ちを訴えて、ちゃんと自分の気持ちを受け入れてもらった場所。自分が、自分になっていくために大切だった場所。
 それは、小さな時を過ごしたという思い出以上の場所だったと言うことなのでしょう。
 それは、遊びの中でたくさんのことを学んで欲しいと思っている私たちの願いそのものなのです。

 そして今、第八十六回羽咋白百合幼稚園卒業式迎えました。
 この子達もいつか幼稚園の事を懐かしんで訪ねて来てくれる時が来るのでしょうか?
 心の故郷になったかしら。
そんな事を考えると、とても楽しくわくわくしてきます。