よく晴れた、秋の事です。幼稚園のお庭で、ばらぐみさんと、夏にきれいに咲きほこっていたお花の種取りをしました。

 
 ひまわりは、大人の背丈より大きくなって、お花の直径も二十センチ以上にも成長し、真ん中には種がぎっしりつまっていました。枯れた茎を十センチ程残して切って、種取りを始めました。しばらくすると、空のティッシュの箱に山盛りになりました。一つの花から、こんなにもたくさんの種がとれるなんて おもしろくて不思議な体験でした。
 
朝顔は、お花が終わって丸い枯れた茶色の皮をむくと、四つ程の黒い種が出てきます。ばらぐみさん達は玄関にあった朝顔の種を取っていましたが、そういえば!と思いつき、テラスの方に走っていきました。テラスとは、ばらぐみさんとゆりぐみさんのお部屋に面したズックで出られるお外のスペースです。夏には水遊びをした場所で、朝顔がプールを取り囲む柵に上手にからまってきれいに花を咲かせていたのを思い出したのです。「やっぱりここにもあったよ」とばらぐみさんは柵に巻き付いた朝顔のつるの所に種を見つける事ができました。
ほうせんかは、ひまわり、朝顔と一緒に五月にしらゆりっこ達に種の紹介をしたお花の一つです。ひまわりや朝顔と比べると、とっても小さくて丸い種です。ほうせんかの種はどこにあるんだろう?お花が終わって、ぷくっとふくれているところを指で押してみました。するとどうでしょう?パチンとはじけて、中に種があるのが見えました。実はこんな風にパチンとはじけて種が出てくるなんて、知らなかった私。ちょっとびっくりしました。そばにいた子に「これ、すごいよ!」と、耳打ちしました。種を取ろうとしてさわったらパチン!びっくりした表情を浮かべながら、種取りをしました。でも、残念な事に種取りの時に四株位しか残ってなかったほうせんか。来年はほうせんかの種にさわれるように、たくさんの花を咲かせたいと思います。後で、園長先生にお聞きしたのですが、ほうせんかの花言葉は「私にさわらないで」だとか?さわったらびっくりするから?おもしろいですね。
そして、みんなが夢中になって取った種がコスモスの種です。春に並んで咲いたチューリップの花が終わって、球根を掘り起こし、なんにもなくなった、園庭の長い花壇。でも、間もなく小さな芽がツクツクと出てきました。べつに植えたわけでもないのに、二、三年前からチューリップが終わった花壇から、季節がちゃんとわかっているみたいに、コスモスが生えてくるようになったのです。
「花火みたいだね。」と誰かが言いました。黒くて長くて小さいコスモスの種は、種の花びらが咲いているように見えます。
そんな風に、種取りをしていたばらぐみさんでしたが、種を取った後、園庭に五、六人が円になってしゃがみこんで、何かをしています。その子達は、次に小さい小石を拾ってきて、園庭に並べ始めました。小石は動物のような形で一筆書きのように囲ってありました。そして「ここ、踏まないでね」と指差したのです。聞けば、そこに今取ったばかりの種を植えたというのです。でも、そこは園庭の真ん中。そこで、「ここはみんなが遊ぶ場所でお外遊びの度に踏んじゃうかもしれない。それから、今植えたのは、暖かい時に咲くお花の種だから、芽がでないかもしれないよ。」と伝えました。少しショックな表情をしていましたが、すぐに納得してくれました。
 
そんな事があって、ある日の事。種を植えた事なんて誰もが忘れてしまった頃です。私が外の掃除をしていると、あれれ?これは!なんと、種を植えた場所に、朝顔の双葉が顔を出していたのです。よく見ると、土の中に芽を入れておじぎをしているような形の芽も発見しました。
 その事を伝えると、あの時残念そうにしていたYくんは飛び上がって喜びました。ここにあったら誰かに踏まれちゃう!と、鉢に丁寧に移し替えました。しかし、鉢の中の朝顔の双葉は、やはり寒空には勝てず、半月ほどして、枯れてしまいました。残念でしたが、ちょっぴりワクワクするような出来事でした。ちょうどクロッカスの球根が3つあったので、その鉢にYくんに植えてもらいました。


毎日のように、お花を一輪持ってきてくれるひよこぐみのKちゃん。お家の花壇から摘んできただろうなと思われるお花や、道ばたに咲いていただろうなと思われるちいさなお花まで、小さな季節が歩いて登園しているようでした。そんなKちゃん。その日はとても大きなものを持って登園してきました。見るとそれはよく道ばたにも咲いている大降りの白い百合のお花が終わって、茎から、種が入っている袋の部分まで、合わせて五十センチ程のものでした。Kちゃんが茎の部分を振る度に、種の袋のはじけた所から、ひらひらと種が地面に落ちているのがわかりました。それならばと思い、一緒に登園してきたお友達と百合の種をお庭に蒔くことにしました。種の袋の中には、ペラペラの種が、一列にぎっしり入っています。Kちゃんとお友達は、お庭の隅っこに行って、「百合の花生えてこい!チチンプイ」と、手に茎の部分を持ち、魔法のステッキのように振り回し、種を蒔きました。なんと言っても、ここは白百合幼稚園です。白い百合がお庭に咲いたらステキですよね。

幼稚園の生活は、毎年同じ出来事の繰り返しかもしれません。しかし、毎日の生活の中で、その年々にいろいろなエッセンスが加えられ、感動し発見していくものだと思います。
  
十二月になり、クリスマスの喜びをみんなで感じているしらゆりっこ達。今、Yくんと植えたクロッカスの芽が少しだけ顔を出しました。