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「ソチオリンピック
もっともっと大事なもの」



 園長 釜土達雄

 ソチオリンピックが終わりました。2月7日から23日までの約2週間、なんだかんだと言いながら、毎日テレビを見ていました。夜遅い競技もあったので、必ずしもリアルタイムで見ることはできませんでしたが、がんばって見た競技もありました。

 最初から楽しみにしていたのは「カーリング」。トリノオリンピックの時におもしろさに気付き、ソルトレークシティーの時にファンになり、オリンピック最終枠の選考会も、ちょっと集中してみることになってしまいました。
 いよいよのオリンピック本番で、何よりも最初にビックリしたのは小野寺佳歩のインフルエンザ。それがためなのかどうか、初戦の韓国戦では惜しい敗北でした。ところが第2戦からは、リザーブの吉田知那美もなかなか良い働きをして、勝利。この1勝があったことでカーリングは今回、俄然おもしろくなりました。
 きわめて単純な円の中心に自分の「石」を何個集められるかで勝負が決まる単純な競技なのに、相手の出方によって、状況は大きく変わるし、石が「ガン!」とぶつかると、石どうしがどうしようもないくらいにばらけてしまう。氷上のチェスとよばれるほどの緻密さが必要かと思えば、偶然に支配される悲しみもある。さらに、いったん氷の上を滑らすために投げた石の動きを、モップのようなもので、一生懸命こすることによって、「いったん失敗しても失敗を取り戻すことができる」競技。力が足りなかったなと思っても、モップで距離を伸ばしたり、方向を少し変えたり・・・。失敗してもやり直すことができる本当に不思議な競技なんです。
 勝った負けたの闘いのおもしろさは当然のことながら、8戦目で中国をギブアップに追い込んだウイニングショットは、お見事でした。この時に4勝4敗となって、最終予選の4チームにに滑り込める可能性が出てきたのですから、ちょっと自分の中では盛り上がりましたし、テレビも盛り上がっていました。けれども・・・、カナダは強かった。そしてスウェーデンも強かった。結局は5位でおしくも最終予選には進めなかったのでした。

 もう一つ楽しみにしていたのが、「スマイルジャパンのアイスホッケー女子でした。このチームは「スマイルジャパン」というネーミングとゴール後のお辞儀が有名になって、そればかりが取り上げられる傾向がありました。けれどもそのスマイルの前提となったあのチームの作戦は、見事でした。がんばってチームに勝利を導くというよりも、笑顔と明るさのチームが冷静に作戦を遂行することによってチームが勝利する。カーラ・マクラウドというコーチの力量が感じられたチームだったのです。
 最終的には1勝もあげることはできなかったけれども、良い闘いをしていました。見応えがあったのです。惜しかったのです。このチームについて語る他の国のコーチや選手が、「このチームは強くなる」というコメントは、嬉しかったなぁ。
 もっとも試合の最中には、こんな冷静ではいられなくて、本当は1点入っていたゴールが認められなかった時などは、「審判!ちゃんと見ろ!」。テレビに向かって、はしたなく叫んだりしたけれど、本当に応援のしがいのあるチームになりました。





 石川県の宝達志水町からこのオリンピック競技に出た選手がいました。津田健太朗というフリースタイルスキー・ハーフパイプの選手です。予選22位で敗退でした。順位のついた何人の中で22位かは書きませんが、よく頑張りました。能登からオリンピックの出る人はあんまりいないので、一生懸命応援しましたよ。津田さんの特集がなされている「宝達志水町の広報」もインターネット上に出ています。それもちゃんと読んでの応援でした。確かに夜は遅かったけれど、2回目を滑り終わるまで見て応援していました。たまたま先日訪れた高岡市の福岡幼児学園の調理師の方が、この津田さんのご実家の隣がご実家で、この話題で大いに盛り上がりました。近くの人が、オリンピックに出るというだけで、なんだか力が入るのです。

 ところがその後フリースタイルスキー・ハーフパイプ女子の小野塚彩那選手が銅メダル。えっ!こんな人いたんだ。とびっくりしました。この時も見ていましたが、さすがのメダリストの演技でした。あんまりよく知らない人だけれど、良かったよかったと思いました。






 スノーボードの2人の男子選手にはビックリでした。新しい楽しみの競技が増えました。
 スキー複合とジャンプの久々のメダルにも感動しました。いえいえ、別にメダルの話ではありません。一度は世界のトップになったこの2つの競技が、最近なかなか結果が出せなくて苦労しているのを知っていました。ところが今回のメダル。選手だけではなく関係者がみんなで本当に喜んでいたこと。解説のはずなのに、応援、応援。メダルが決まったら絶叫して喜んでいる。よかったなと思いました。


 残念だったのは、女子ジャンプの高梨沙羅選手。ジャンプは屋外競技ですから、風などの自然条件によって大きく変わるはず。もちろんそれに合わせてとべるのがトップ選手なのでしょうが・・・残念でした。十七才の高梨選手にはまだまだ先がある。すまなそうな顔でインタビューを受ける高梨選手がなんだかかわいそうでした。






メダルがなくても感動を与えてくれた、といえば、浅田真央選手と上村愛子選手。どちらもずいぶん長い間、トップ選手として注目をあびてきました。いつも注目されていて、いつもメダルを期待されていて・・・。
 なんだかそんなにがんばらなくてもいいよと声をかけたくなるような二人。
 今回メダルという結果は出せなかったけれど、競技を終えた後の、やりきったという笑顔が長い間彼女たちに注目し続け、一緒に時を過ごしてきた者に、とても感動を与えてくれたのでした。

 ところが、そんな結果を出せなかったアスリートに、心無い言葉を投げかける人もいたのです。中には、冷静な物言いで、心無い言葉を投げかける人がいるのです。
 「費用対効果」と、言うのだそうです。投資した費用に見合った効果を求める。お金をかけて強化選手にし、日の丸背負ってオリンピックに出たんだから、「費用対効果に見合ったメダルぐらい持って帰れ」ということだとか。
 「費用対効果」。「国民の貴重な税金が投じられているのだから『費用対効果』はやはり考えていかないといけない」。メダルの話しが出てくるときに、いつも出てくる。「費用対効果」。




 今回のオリンピック。ワクワクハラハラすこともいっぱいあったのだけれど、なんとなく後味の悪い言葉も残りました。メダルメダルと連呼する言葉も、妙に耳に残ってしまいました。銅メダルが何個で、銀メダルが何個、金メダルが何個。メダルの可能性がなくなりました。そんな言葉です。
 グーグルでオリンピックと検索すると、最初に出てくるのがメダル獲得数。しかも各国のメダル獲得数なのです。1位がロシアで、2位がノルウェー、3位がカナダ、・・・17位が日本。









 オリンピック憲章は、その前文に続く「一.オリンピック・ムーブメントとその活動」の「6 オリンピック競技大会」に、次のような文面があります。「1.オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない。」
 注意して読みたいと思います。「オリンピック競技大会は、選手間の競争であり、国家間の競争ではない。」
 費用対効果で考えてはいけないし、アスリートとしての努力と研鑽の結果を持って、選手間で競技する。ある時には勝し、ある時には負ける。けれども試合が終わったら「ノーサイド」。互いの健闘をたたえることこそ、大事なアスリートの姿。
 だから、国威発揚のためにオリンピックを利用するのはいけないし、メダルを取って来いと、アスリートを叱咤激励するのは、いかがなものかと、思うのです。
 結果的にそれが、メダルに結び付き、結果的にそれが、みんなの喜びの共有になったりするのはよいのでしょうが、メダルが目的になったりするのは、どうなのかな、と思います。

 だって、オリンピックに出られてだけで「よかったね」と言いたくなる人がいるのですもの。オリンピックに出たという経験を、その競技者の育成に役立ててほしいと思う人がいるのです。ましてやその人ががんばって入賞でもしようものなら、みんなで大喜びをしてあげたいと思う。その人の頑張りを、自分の励みにしたいと思う。そんな風に思っていた人は大変多いのだと思うのです。
 だから、メダルの取れなかった浅田真央選手や上村愛子選手の心に寄り添いたいと思うし、高梨沙羅選手を応援し続けたいと思う。スマイルジャパンだって、カーリングだって、お気に入りのどの競技だって、その競技が大好きな人にとっては同じなんだろうなぁって、思うのです。
 そう。メダルが取れたかどうかよりも大事なものがあるし、費用対効果では測れない、素敵な努力も感動もあるのです。数値化できない努力や感動があるからこそ、スポーツは素敵なのです。そして、それを知っているからこそ、オリンピック憲章は、「国家間の競争ではなく、選手間の競争」と言うのでしょうし、わたしたちはオリンピックという場で繰り広げられる競技が好きなのでしょう。

 今度の土曜日は七尾幼稚園の「おひなさまの会」。子どもたちは、オペレッタや合奏に取り組んでいます。
 「費用対効果」は、ふさわしくありません。金メダルかどうかもふさわしくはありません。
 大事なのは、喜んですごしていること。子どもたちの社会の中で、大切な仲間として受け入れられていること。

 決して数値化できない子どもたちの成長を、ご家庭の皆様とともに喜びたいと思います。




(2014年2月28日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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