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「あまちゃんを見ながら
     考えていたこと」



 園長 釜土達雄


 
  今週は、NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」の最終週。そんな時に園だよりの巻頭言を書くことになりました。いろいろ考えてみたのですが、やっぱり今回しか書くチャンスはないなと思い、ちょっと普段とは違いますが、「あまちゃん」のことにふれておきたいと思いました。

 だいたい、わたしはNHKの朝の連続テレビ小説なんて、ほとんど見ることがありません。たとえテレビがついていて、その時間に、その番組が流れていても、朝の連続テレビ小説をちゃんと見ることはありません。(「ゲゲゲの女房」は少しまじめに見たかな。)朝の忙しい時間に、テレビの前にかじりついてるわけにはいかない。そんな感覚です。
 ところが、今年の四月「あまちゃん」第一回目の放送を何気なく見てしまいました。何となく次の日も見てしまい、そして何となくその次の週も見てしまったのです。
 「生活習慣」は、なかなか変えることが出来ません。そこでついつい、毎日見ることになってしまったのです。まったく、「じぇじぇじぇ」の生活習慣となりました。


 ストーリーは大きく分けて二つあります。前半は「故郷編」。引きこもりがちな東京の女子高生が、東北地方の三陸海岸にある架空の町、祖母の住む「岩手県北三陸市」に、夏休みに母親と一緒にやってきます。彼女は祖母の姿にあこがれて、海女になりたいと願い、東京の高校をやめて、この町の高校に転校することになります。ところが、思いがけないことから、地元のアイドルになるのです。
 後半は「東京編」。主人公の天野アキは、全国の地元アイドル達を集めたアイドルグループ「GMT」のメンバーとなるのですが、なかなか芽の出ることもなく、苦労しながら成長していくのです。そして、現実に起こった2011年3月11日の東日本大震災。「GMT」を中退してアイドルとなっていた天野アキは、決心して北三陸市に戻り、震災復興の手伝いをすることになるのです。
 まさに今週はその集大成。最終週なのです。

 脚本は宮藤官九郎(くどうかんくろう・愛称クドカン)。主演のヒロイン、天野アキ役は能年玲奈(のうねんれな)。多彩な脇役の名優達に支えられて、コミカルな喜劇として仕立て上げられています。

 あまちゃんの最高視聴率は9月26日の27%。朝の連続テレビ小説でこの視聴率は驚異的らしい。ところがインターネットで調べてみると、「一日に何度も見る人がいるので、本当の視聴率はもっと高いのではないか」と言うことなのです。そうなんです。あまちゃんは、BSで朝7時30分からと夜11時から。地上波では朝8時からとお昼の12時45分から。一日に4回もあって、しかも視聴率は、朝8時からの視聴率であって、合算もしていないし、BSの分は無視されているのです。ちなみに私の知り合いには、あまちゃんを何度も見るためにオンデマンド契約をしたという者もいます。

 知らない言葉もいっぱい知りました。
 「小ネタ」。クドカンの作品には小ネタが多いのだそうです。「わかるヤツだけわかればいい」というネタ。だから、「この意味はどんな意味だろう」と、会話の一つ一つに「?」を感じる人が、いろいろ調べ物をする。そしてそれをいろんなところに投稿している。それを読んで納得する人がいる。スマホやタブレット全盛時代の手法なのかもしれません。
 「あま絵」。あまちゃんのワンシーンを絵にして投稿するのが「あま絵」です。本当にたくさんの「あま絵」があって、プロの人が描いているものがあるものですから、本当に素敵な作品がいっぱいです。
 「あまロス」。あまちゃんを見続けたあまちゃんファンが、今週が終わって、来週からどうしようかと心配になっている。そんな心配の症状を「あまロス」というのだそうです。

 「あまロス」になるのかどうかはわかりませんが、わたしも見逃さないようにと録画はちゃんとして見ていましたし、「小ネタ」がわからないと、調べ物もしました。さすがに「あま絵」は描きませんが、たくさんの「あま絵」は、鑑賞してきました。



 どこがおもしろいのかな。そう考えることがあります。なぜ人気があるんだろう。そう考えることがあります。
 人それぞれにおもしろいと感じているポイントは違います。また、気に入っているポイントも違うでしょう。けれどもわたしは、総じてほのぼのとしたあたたかさがあるんだと思うのです。特に、田舎に対するあたたかさがあるんだと思います。さらに、震災後の、苦しみのただ中にある人々に対するあたたかさがあるんだと思うのです。
 町おこしのために、苦労する人々に対するあたたかさ。「まめぶ」や「こはく」にこだわって、一生懸命な人々に対するあたたかさ。そして何より、地震や津波を、当時の映像を全く使わないで、出演者の表情だけで描いたあたたかさ。そんなあたたかさが、このドラマ全編を貫いていました。
 限りない人々に対するあたたかさ。それがこのドラマの魅力なのでしょうし、人気の理由なのでしょう。そしてそれに加えられるように、あたたかな笑いがある。それが、さらに、ドラマを魅力的にするのでしょう。

 けれどもわたしは、それだけではないと思う。あたたかさは大事ですが、あたたかさだけの魅力のないドラマはたくさんあります。笑いを作り出そうとして、おもしろいことは言うのですが、上滑りの笑いもたくさんある。
 料理の甘みをひきだたせるためには塩味が不可欠なように、あたたかな笑いをきっちりとまとめる名言の数々。深く考えさせられる名言の数々こそ、このドラマの本当の魅力に他ならないと思うのです。


 琥珀の勉さんという登場人物がいます。
 琥珀は、木の樹脂(ヤニ)が地中に埋没し、長い年月により固化した宝石です。ドラマではトンネルから掘り出した琥珀をいつも磨いている勉さんとして登場するのですが、その勉さんが次のように語ります。

「どんな良い原石もよ、磨かなかったら宝石にはなんねぇ」

 天野アキちゃんを育てるマネージャーになっていく水口に向かって語る言葉です。リアスという軽食喫茶で、ひたすら琥珀を磨いている勉さんの姿と共に、人を育てるとはどういうことか、考えさせられる言葉でした。


 アキちゃんのおばあちゃんの天野夏さんの言葉は、毎回考えさせられました。心打つ言葉が多かったのです。

 そんな夏さんがアキちゃんに語った言葉です。

 「飛び込む前にあれこれ考えたってや、どうせそのとおりにはなんね。だったら何も考えずに飛び込め」(天野夏)

 また、アイドルになるために東京に向かうアキちゃんにこんなふうにも語りました。

「この先つれえことがあったらこいつで涙拭け。そんで思い出せ。寒い朝、浜さ出て潜った時のこと。あれよりつれえことはまず、ねえから。」

 新しい生活に一歩前に踏み出さなければならないときに、なんとすてきな言葉でしょう。


 けれども私が最も好きなのは、アキちゃんのお母さん春子が東京に向かう娘に語った言葉でした。



アキ「ママ!私変わった?
 1年前と随分変わった?」
大吉「出発進行ーーー!」
春子 「変わってないよ、アキは。
 昔も今も地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もないパッとしない子だけど、
 だけど、
 みんなに好かれたね!
 こっちに来て、みんなに好かれた。
 アンタじゃなくて、
 みんなが変わったんだよ!
 自信持ちなさい。
 それはね、案外すごい事なんだからね!」
アキ 「うん!」


 自分が変わったかどうかを問うアキちゃんに、お母さんの春子が答えます。

「アンタじゃなくて、
 みんなが変わったんだよ!
 自信持ちなさい。
 それはね、案外すごい事なんだからね!」

 存在そのものに価値がある。
 アキちゃんという一人の人間の存在に価値がある。

 何ができるとか、どんなことを知っているとか、そんな事とは全く関係のない、存在そのものの価値。周りの人を変えていく力。その子の存在そのものが持っている力。
 ずっとアキちゃんことを「昔も今も地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もないパッとしない子」だと思っていたのに、周りも自分も変わっていく力を持っていた、存在そのものに価値ある子だと気づいていく。
 そんな春子というお母さんの発見が「すてき」だな、と思うのです。
 子どもって、そうなんだと思うのです。


 
 「あまちゃん」の続編が製作されることが決まったら、また見たいなと思います。「あまロス」にはならないと思うけど、「潮騒のメロディー」も「地元に帰ろう」も、「南部ダイバー」も、サントラ盤も含めて買っとかなくっちゃ、と思います。DVDは、悩み中。



 運動会。まもなくです。
 幼稚園児なのですから、ちゃんと出来ないことがいっぱいです。でも、子どもたちはみんな、お家の人たちにがんばっているところをお見せしたいと張り切っています。
 我が子を通して、変わっていくみなさまと、またお会いします。
(2013年9月27日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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