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「ちょっぴりかわり者はステキ」



 副園長 釜土蘭子


 
 6月末、所用で東京にいった時に、ちょっと時間があったので、一つの展覧会にいきました。
『レオ・レオニ 絵本のしごと』   です。


 


 レオ・レオニ、は日本ではかなり有名な絵本作家ではないでしょうか。
 代表作の『スイミー』が小学校の国語の教科書に掲載されています。『スイミー』を題材とした劇が小学校などでよく演じられていますね。
 
 ちいさな赤い魚の兄弟の中で、一匹だけ黒い、スイミー。兄弟がみんな食べられてしまうなかで、黒いだけではなく泳ぐのは誰よりも速かったから、大きな魚に食べられずに逃げることができました。ひとりぼっちになってしまった孤独、いろいろな生き物との出会い、生きる喜び、そして新しい兄弟たちとの出会い。美しい絵でスイミーの世界は広がっていきます。そして小さな魚が一つになって大きな魚のように泳ぐラストは,感動的です。小さな存在も力を合わせれば、大きな存在に打ち勝つことができる。

 そういうメッセージは確かにこの物語の中に込められていると思います。
 けれど今回展覧会で、レオ・レオニの作品を集中して見ると、そしてレオ・レオニの生涯に思いをはせる時、違うメッセージも見えてきました。



 『レオ・レオニ 絵本のしごと』の展示は4つのコーナーに分かれていました。それぞれ原画や初版本などが展示されています。

 

 1つめのコーナーは
 『個性を生かして
   ちょっぴりかわり者のはなし』
 2つめのコーナーは
 『自分は自分
  みんなとちがうことはすばらしいこと』

 3つめは「よくばりすぎはよくないはなし」、4つめは「小さなかしこい勇者たちのはなし」となっていきます。


 そう、レオ・レオニが愛したのは、周りとは違っていて、ちょっと変わった個性をもっている者たちなのです。

 レオ・レオニは一九一〇年、オランダに生まれました。その後、イタリアで画家・デザイナーとして活動しますが、第二次世界大戦の中、ユダヤ系であった為にアメリカに移住。終戦後、再びイタリアへ。イラストレーター、グラフィックデザイナーとして活躍。49才の時に自分の孫の為に描いた『あおくんときいろちゃん』が絵本の第一作目。一九九九年没。

 この経歴をみると、彼自身も「周りと違う」存在だった気がします。
 そして数多くの絵本が、孫と孫と同じ世代の子どもたちへ描かれたことも心にとめておかなくてはいけないようです。

 
 そう、『スイミー』も一匹だけ黒い、というユニークな存在です。ユニークであるが故に、生き残り、孤独を味わいます。けれどかわり者であるが故に、他の者たちと違う発想ができ、違う役割を担うことができる。赤い小さいお魚が集まっただけではなくて、黒いスイミーがいるから、大きな魚に見えるのです。
 『スイミー』もいろんな角度から読むことができる作品ですね。教科書で読むと、残念ながら、全ての絵が載っているわけではないので、ぜひぜひオリジナルの絵本で読んでほしいなと思います。

 レオ・レオニは、油彩、水彩、クレヨン、色鉛筆など様々な表現技法を使っています。コラージュという技法もあります。貼り絵です。ストーリーにふさわしい手法を使おうとした作者の幅広さ、子ども用の絵本だからこそ美しく美しく作ったのであろう意図を、一枚一枚の原画から感じました。絵本は、絵とストーリーが一体となってこその、絵本ですね。

夏休みにちょっと子どもたちといっしょに絵本を読んでみませんか?
 というわけで、ここからはおすすめ絵本のご紹介。小学生や中学生がよんでも、考えて読んだら、深い!ですよ。




 個性的がすぎる主人公が登場する絵本、といえば『コーネリアス』です。
 なんと「たってあるいたわにのはなし」です。ワニなのに立って歩くコーネリアス。立って歩くことで、他のワニには見えないものが見える、とコーネリアスは言うのだけれど他のワニには「それがどうしたっていうの?」と言われてしまう。それでもめげないコーネリアス。ついには逆立ちをしてみせる。そしてフフッと笑わせるラスト。

 みんなと違うっておもしろい。
 そんなことを感じさせる絵本です。


 「自分は自分 I am Me」のコーナーには自分探しをする物語があります。
 自分は小さな存在にすぎないのかと迷う主人公が出てくる絵本もあります。
 色彩が美しい、レオレオニならではの作品『じぶんだけのいろ』では、カメレオンが自分の本当の色は?と迷うお話。いわばカメレオンが自分探しをするわけです。

 自分探しということでは『ペツェッティーノ』。小さな四角が主人公。小さな部品にすぎない自分は、何か大きなものの一部ではと旅に出るお話です。でも自分は自分。それを見つける過程が色鮮やかに描かれています。小さい目立たないモノに注がれる優しさを味わえます。

 園長先生の一番のお気に入りは、『あおくんときいろちゃん』。説明不要の名作ですが、ここにも「自分は自分」という視点がしっかり描かれていますよね。

『さかなは さかな』も、色のきれいな絵本です。色鉛筆でかかれたものです。
オタマジャクシと出会った、さかな。ところがオタマジャクシはやがてカエルになって水の中から出ていってしまいます。さかなは自分も水から出たいと思うのです。

 でも、さかなはさかな。

そしてさかなは気づくのです。自分のいる水の中が、とても美しい世界であることを。
 たなばたさまの会で園長先生がお話しする「お星さまにさわれる話」の結論と似ていて、遠くばかり見ているのではなくて、自分の住んでいる身近な場所のすばらしさを知るのです。

 

 キャラクターグッズなどが販売されている『フレデリック』。ちょっとぼーっとした顔のネズミを見たことがあると思います。
 このフレデリックも、かわり者の中のかわり者。一歩間違えれば、怠け者です。何しろみんなが冬に備えて一生懸命働いている横で「色を集めている」とか「言葉を集めている」とか言うのですから。他のネズミから嫌われないのかと思うほどです。
 でもフレデリックにはフレデリックの出番があるのです。

 


 『フレデリック』を読むと、幼稚園の中でちょっぴりのんびり屋さんのお友だちの顔が浮かんできます。少しゆっくり周りを見ている子、です。ゆっくりゆっくり・・・。でも何か他の子と違う視点で違うステキなものを見つけているのかもしれない。
 だからちょっぴり待ってあげようかな・・・。そんな気持ちになります。

ヘンなポーズをして、「先生、見てみて!」と声をかけてくるのは、ワニならぬ子どものコーネリアスくん。もっとおもしろいポーズをして、みんなを笑わせて!


 
 大人はついつい、子どもたちを他の子と比べてしまいます。そして同じようにできることを評価しがちです。
 「みんなとちがうことはすばらしいこと」となかなか言えなかったりします。のんびり屋さんには、「はやくして!」って言ってしまいます。違うところを見ている子には「なにしてるの、こっちを見て!」と言ってしまいます。
 
 ちょっとゆっくり、レオ・レオニの絵本のステキな世界を味わってみませんか?
 「ちょっぴりかわり者」で「ちがうことはすばらしいこと」。だけど「じぶんはじぶん」。

 一人一人違う子どもたちの、一人一人違う成長を見守っていける大人でありたいと思うのです。  ちにとって変身の季節です。
   
(2013年7月19日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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