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「変身、 ヘンシン、
     ヘーンシン」



 副園長 釜土蘭子


 春から夏へと向かう季節は、生き物たちにとって変身の季節です。

 プニョプニョのゼリーのようだったカエルの卵。そこから黒い線がニョロッと出てきてオタマジャクシになりました。そして、後ろ足が出て、前足が出てついにカエルになります。


 黒い小さい虫が、緑色のアオムシに変身。ゆずの葉をモリモリ食べて大きくなっていき、じっとしていたかと思ったら、サナギに変身。緑色のサナギがだんだん黒ずんできてなんだかシマ模様が透けて見えてきます。そしてその中からポンとチョウチョが登場!最初はくしゃくしゃな羽を少しずつ伸ばしていって、ついにみんながよく知っているアゲハチョウになりました。




 コロコロの幼虫だったカブトムシ。今はサナギになっています。もう少しするとみんなの大好きなかっこいいカブトムシが登場することでしょう。



 産まれた時の姿と、成虫の姿が大きく違えば違うほど、変身のおもしろさがあります。そんな意味では、卵から出た時点で親と同じ姿をしているカマキリのようなものは、おもしろさという面ではちょっと劣るかもしれませんね。


 変身をしているのは、動くものたちだけではありません。
 植物たちも、華麗な変身をしています。

 手のひらにのせた小さな小さなタネ。土の中に埋めるとやがて芽が出てきます。双葉が出たかと思ったらどんどん次の葉がでてきます。大きく大きく育って、夏にはきれいな花を咲かせてくれることでしょう。


 みんなでクイズをして考えた「野菜の苗」。
ピーマン、トマト、なす、枝豆。小さな苗はどのお野菜のお母さんなのか、ちょっと見ただけではわかりません。みんなでプランターに植えて、毎日お水をあげて、だんだん大きくなって、小さな花が咲きます。なすの花はムラサキ色でいかにもなすができそうですが、トマトの花は黄色。黄色の花が咲いた後に緑色の実がなって、それが赤くなって、やっとみんなの知っているトマトになるのです。変身を繰り返してトマトになるのです。ピーマンの花は白。本当にピーマンの花?と思っていたらやがて小さな緑色のピーマンがそこにいるのです。そうそう、きゅうりの事も忘れてはいけません。黄色い花の元にできる小さなキュウリ。毎日少しずつ大きくなってりっぱなキュウリになるのです。



 そう、植物たちだって変身しているのです。
 


 変身という言葉が子どもたちは大好きです。


 子どもたち向けのテレビ番組は昔も今も「変身」が大人気です。

 いつもは普通の人なのに、「変身」してヒーローになる。それがかっこいい!
ウルトラマンがもし初めからウルトラマンだったらドラマにはなりません。ふだんは普通の人間なのに変身したらウルトラマン。そこがとってもかっこいい。

 今も続く仮面ライダー。変身ポーズが決めポーズ。
 戦隊ものだって、変身がなければなりません。普通の若者が変身して、キョウリュウジャーになる。さら合体して、もっと強いものになる。
 ポケモンも「進化」という変身を楽しむ面があります。最初はかわいらしいキャラクターが、進化してより強いものになる、ポケモン人気を支える大きな要素ではないでしょうか。

 女の子だって変身。前は魔女ものが人気でしたが、セーラームーンにプリキュアと変身して悪と戦う、かわいいかっこいい女の子が憧れの対象です。

 ふだんの姿と変身した姿、それが二つ楽しめるところが魅力なのです。毎日の遊びの中で、男の子も女の子もヒーロー・ヒロインに変身してごっこ遊びを楽しみます。もちろん、変身ポーズは大事な要素。変身の為の小道具は折り紙や空き箱などを使って作ります。


 子どもたちは「変身」が大好きなのです。



 そして子どもたち自身も「変身」しています。

 3月に卒業していった子どもたちが久しぶりに幼稚園に来ると、その成長に驚かされる事があります。3月には確かに幼稚園児でした。大きいけれど幼稚園児だったのです。けれどわずか2週間で、小学生に変身します。それはランドセルとか制服とかそんな小道具の影響だけではありません。確かに顔つきが変わり、体つきも変わってくるのです。見事な変身ぶりにドキッとさせられます。



 長く幼稚園の仕事をしていると、小さな子どもたちが何年もかけて、変身していく姿に感動させられます。

 入園当初は泣いてばかりだった子が、慰める側に変身。靴をはかせてもらっていた子がはかせてあげる方に変身。紙パンツからお兄ちゃんパンツお姉ちゃんパンツに変身。わずかな単語しかお話しできなかった子が、おしゃべりな子に変身。ヨチヨチ歩いていた子が、ダッシュできるように変身。幼稚園の間でもけっこう変身していくのです。

 そして幼稚園を卒業して、小学生に変身。

 小学生から中学生へ。おとなしい子なのかと思っていたら、いつのまにか部活のキャプテンとかしていたりします。中学の職場体験(わく・ワーク)でやってくる卒業生もいます。「幼稚園の先生って大変なんだ〜」、なんて改めて言われるのは不思議なものです。



 幼稚園・保育園の先生を目指して、教育実習にくる卒業生にも出会いました。そしてその中からはついに、七尾幼稚園の教師に変身してしまった者までおります。

 「お母さん」に変身して幼稚園に戻ってくる卒業生もいます。これもまたステキな変身だと思うのです。
 
 
 人間の「変身」は、カエルやアゲハチョウほど急激ではありません。でもどの人生もドラマチックでかけがえのないものです。

 カブトムシやアゲハは、幼虫の時代にたくさん食べます。その時たくさん食べて大きくなると、大きな成虫になれるのです。

 幼稚園の時代はいわば、幼虫。人間の大きな変身の中ではまだまだはじまりの時期です。けれどはじまりの時だからこそ、たっぷり遊んで、その中から大事なことを学んで、心の栄養をたっぷりためて、大きく変身していく基礎を作ってほしいと思います。   
(2013年6月26日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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