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「三人の博士」


 園長 釜土達雄

   
  今年も幼稚園にクリスマスツリーが飾り付けられました。ツリーが届いたのは、先週の土曜日。今週の土曜日が幼稚園のクリスマス会ですから、クリスマス会の前のわずか1週間前のクリスマスツリーの飾り付けとなりました。

 七尾幼稚園には、幼稚園の玄関とホールにクリスマスツリーが飾り付けられます。それに加えて隣接する教会の前に1ヶ所。合計3ヶ所に、大きなクリスマスツリーが飾り付けられています。
 しかもそれらのクリスマスツリーは、実際に山から切り出してきた生木。種類は、よく歌に出てくる「もみの木」ではなく、七尾で自生の雑木「かやの木」です。
 いつもの年でしたら、アドベントに入ってしばらくすると業者の方が届けてくださいます。ところが今年は、いつも業者の方が切り出してくださるその時期に雨と雪で山には入ることができませんでした。のびにのびて・・・ようやく晴れ間の見えた先週の金曜日に、山に入ってくださって切り出し、土曜日に届いたというわけなのです。

 いつもの年より遅くに届いたクリスマスツリーですから、少しあわてての飾りつけとなりました。いつもの年でしたら、クリスマスツリーが届いたらまずそれをたてて、子供達と一緒に飾り付けをします。なるべくたくさんの子どもたちに参加してもらって、飾りをつける。そして、飾り付けの最後に「一番大切なもの」としてみんなが見ている前で木のてっぺんに星をつけるのです。そのことでもうすぐクリスマス!というワクワク感を高めていきます。けれど今年はもうクリスマスに向けての様々な活動ははじまっていました。
 
 ホールのツリーはいつもの通り幼稚園のお友だち全員で飾りをつけるとしても、幼稚園の玄関のツリーは、土曜日の夜から電飾を開始したいところです。でも、子どもたちと共に飾り付けもしたい・・・。そこで、土曜日登園の子どもたちが幼稚園前のツリーの飾り付けをはじめました。でも残念ながらその時は準備が整わず、子ども達の前で星をつけることはできなかったのです。子どもたちがいない時に先生たちだけで星をつけ、電飾をつけました。
 
 けれど月曜日には、いつもの年のように子どもたちみんなと飾り付けをしました。最後に「一番大切なお飾りがないね〜」と語りかけると、「ほし〜」という声が子どもたちからあがります。クリスマスツリーのてっぺんには星が輝く。星のないクリスマスツリーなんてありえないですよね。

 いったいなぜ、クリスマスツリーの上には、必ず1個の星が飾られるのか?
 それは、クリスマス物語に登場する「3人の博士たち」に由来するのです。


 クリスマスの夜に誕生するイエスの生涯について記した「福音書」は、聖書の中に4つあります。4人の別々の人が、イエスの生涯を記し、それが聖書の中に、それぞれ独立して納められました。その中で、イエス誕生の物語、クリスマス物語を記しているのは、マタイという人とルカという人の2人です。
 その中のマタイが、記している福音書の中に、3人の博士の物語が登場します。


イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、 言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」 (マタイによる2章1節〜2節)

 占星術の博士たちと訳されている博士が、通常3人の博士と呼ばれる人々です。彼らはゾロアスター教の祭司たちでした。星占いによって神様の御心を知ろうとしていました。今の星占い、西洋占星術の基本を作ったのがゾロアスター教の祭司たちでした。
 その彼らが、星占いによって救い主の誕生を知ります。そしてそれが、「ユダヤ人の王」としてお生まれになったと知って、「王ならば王宮に生まれたはず」。ユダヤのヘロデ王のところにやってきたのでした。

 ところがヘロデ王は、そんなことなど知りません。またこの時、王宮に王子は生まれていませんでした。


 これを聞いて、ヘロデ王は不安を抱いた。エルサレムの人々も皆、同様であった。王は民の祭司長たちや律法学者たちを皆集めて、メシアはどこに生まれることになっているのかと問いただした。 彼らは言った。「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています。『ユダの地、ベツレヘムよ、/お前はユダの指導者たちの中で/決していちばん小さいものではない。お前から指導者が現れ、/わたしの民イスラエルの牧者となるからである。』」 そこで、ヘロデは占星術の学者たちをひそかに呼び寄せ、星の現れた時期を確かめた。そして、「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。わたしも行って拝もう」と言ってベツレヘムへ送り出した。(マタイによる福音書2章3節〜8節)


 3人の博士たちの話は、ヘロデ王を不安にします。自分の地位を脅かす王子の誕生というふうに理解したからです。そしていろいろと3人の博士たちから聞き出した後、自分たちの調べたこと、「救い主(メシア)はベツレヘムで生まれる」という預言を教えて、送り出すのでした。
 しかしそれには恐ろしい計画が秘められていました。それは、3人の博士が帰った後、ベツレヘムとその周辺の2歳以下の男の子を皆殺しにするという計画でした。そしてそれは本当に実行されたと聖書は伝えています。


 一方、3人の博士はヘロデ王に教わったとおりベツレヘムに向かいます。しかし、ベツレヘムのどこで生まれたのかはわかりません。
 ところが彼らがちゃんと馬小屋を見つけることが出来るように彼らを導いたものがありました。聖書は次のように記しています。


 彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。学者たちはその星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。ところが、「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行った。(マタイによる福音書2章9節〜12節)


 そう、3人の博士たちを馬小屋まで導いたのが、星だったのです。星が導いて3人の博士をイエス様のところに連れて行きました。だから、高いところに星をかかげるのです。それが、クリスマスツリーのてっぺんに、星を掲げる理由だったのでした。


 ところで、これらが3人の博士に関して記されている聖書の全文です。気付くことは、3人という記述がないことです。
 それにもかかわらず、わたしたちは3人の博士と呼んでいます。なぜかといえば、「黄金」「乳香」「没薬」の3つの贈り物が贈られたので、贈り物の数から3人の博士と呼ばれるようになったのでした。

 そしてもっと大切なことは、3人の博士は贈り物を持っていったのであって、贈り物をもらいに行ったわけではなかったということでした。あたりまえのようなことですが、これが幼稚園の子どもたちにとっては、最も伝えておかなければならない、大切なことなのでした。


 わたしは、クリスマスを待ち望むアドベントの期間が始まる時、子どもたちの前で必ずお話をする大切なことがあります。
 それは、「お友だちの誕生をお祝いする時は、プレゼントをもらいに行ってはいけません」というお話しです。
 「クリスマスはイエス様のお誕生をお祝いする日。その日に、プレゼントをほしがるのは・・・ヘン!」というお話しです。
 「だから、まずみんながプレゼントを持ってクリスマスをお祝いしましょう」。そう、お話しするのです。
 そして考えてもらいます。「神さまの子どものイエス様には、どんなプレゼントがよいでしょう?」

 いろんなプレゼントの名前が出ますが、「神さまの子どもだったら、そんなの持っているんじゃない?」と答えます。「お金」なんていうアイデアが出ても、「神さまの子どもだったらたくさん持っているんじゃないかなぁ」。そして考えてもらうのです。
 「神さまの子どもでも絶対に持っていないもので、みんなしか持てないもの。それが一番いいんじゃない?」

 「なに?」と聞く子どもたち。
「それは、みんなの、よいお心。
 みんなのよいお心は、みんなのものだから、神さまの子どもでも持っていません。
 だから、みんなのよいお心を数えて、イエス様のところに、お祝いとして持って行きましょう。
 みんなのよいお心を、
 神さまは一番喜んでくださると思うよ」。

 そして、最後にこんなふうに続けます。
 「お母さんも、お父さんも、お家の人も、みんな、よい子のところにはサンタさんがやってくるっていうでしょう。よいお心を数えて、クリスマスをお祝いするこのところには、きっとサンタさんがプレゼント持って、やってくると思うんだ。」
 園長先生が、子どもたちにする、大切な大切なクリスマスのお話しす。


 最初のクリスマスをお祝いした3人の博士たちは、「黄金」「乳香」「没薬」の3つの贈り物を持ってお祝いしました。自分たちで考えられる最高の贈り物だったのでしょう。だから贈り物の数になぞらえて、3人の博士と呼ばれました。

 あのときから二〇〇〇年を超えて祝う七尾幼稚園の子どもたちは、黄金も乳香も没薬も、持っては行きません。でも、もっと素敵なもので、クリスマスをお祝いします。それは、「よいお心を一つ一つ数えて、よい子になろうとした素敵な心」で、クリスマスをお祝いすのです。それは、とっても素敵なクリスマスだと思います。あの最初のクリスマスよりも、ステキなプレゼントだと思います

 だから。
 一人ひとりのよい子の子どもたちに、ちゃんとサンタさんがプレゼントを持ってきてくださったら、いいなぁ。
 わたしは心から、思っています。

(2012年12月20日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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