直線上に配置

「運動会の日が、晴れますように。」



 園長 釜土達雄

   
  もうすぐ運動会。
 子供達は「あと・・回ねたら運動会」と、運動会を楽しみにしています。
 「お母さんがきてくれる」
 「お父さんが・・・」
 「おばあちゃんが・・・」
 楽しみな、楽しみな運動会です。


 七尾幼稚園の運動会は、スリルに満ちています。
 体育館を使っての運動会ではありません。幼稚園の園庭で運動会を行います。
 しかも、もしも雨になったら・・・を考えて、体育館を予約しているわけでもありません。もしも雨になったら、あの狭い幼稚園のホールで運動会を行います。
 もしも、例えば台風が直撃しそうで、最初から運動会が出来そうでなかったら、「雨天順延」をお願いするかもしれません。けれど、基本的に「雨天順延」は、なし。小雨決行。幼稚園のホールが中心の運動会でも、少しでも晴れたら、園庭で運動会をしようと、考えているのです。

 




 だってそうでしょう。
 毎日毎日楽しんでいる「運動会ごっこ」。それは、みんながいつも一緒に暮らしている幼稚園の中で楽しんでいます。ダンスも、かけっこも、幼稚園の中で楽しんでいます。
 毎日みんなが過ごしている幼稚園に、お家の皆様が来てくださる。それが運動会。みんなが楽しんでいる運動会ごっこに、お家の方が参加してくださる。それが運動会。それは、みんながいつも過ごしている幼稚園の園庭以外、あり得ない。
 そんな伝統が・・・、スリルに満ちた七尾幼稚園の運動会を形作っているのです。
 今年は晴れるだろうか?2週間も前から、幼稚園の先生は、みんなドキドキなのです・・・。

 けれど、そんなわたしたちのドキドキを、全く気にしていない子どもたちは、単純明快、純粋素朴に信じています。
 「運動会の日は、晴れになる!」。
 運動会の日に向かって、あれもやってみよう、これもやってみようと、夢をふくらませて、準備をしています。
 運動会の日が雨になるなんて、考えたこともないのです。


 お家の皆様はどうなのかしら?
 事前に天候が悪くなりそうだと、お問い合わせもいただくのですが、今年も何とか晴れそうです。ですから今のところ、どなたからもご心配の声は聞きません。これが先週の、台風がどうなるかわからない土曜日だったら、やっぱりみんなで心配しなければならないところだったのでした。


 でも、きっとだいじょうぶ。天気のことなど心配しないで、運動会を楽しみにしたいと思います。



 

 運動会を含む二学期の幼稚園には、隠されたテーマがあります。保育目標などにはなかなか記されない基本テーマです。
 それは、
「ひとりでやっても楽しいけれど、みんなでやるともっと楽しい」。

 一学期にも同じようにテーマがあって、「たくさんの人に支えられているわたしたち」。
 こどもの日や母の日、花の日、そして父の日。わたしたちは、お家の人たちや周りの人たち、たくさんの人たちに愛され、支えられ、守られて生きていることを、感じるための行事がたくさんあるのです。
 それらをふまえて、二学期は「ひとりでやっても楽しいけれど、みんなでやるともっと楽しい」ことを感じる四ヶ月なのでした。その最初に登場するのが、運動会です。

 かけっこ。ひとりで走ってみても楽しいけれど、ルールを守って、「いちについて、よーい、ドン!」。それで初めてかけっこになります。
 ダンス。ひとりで踊っても楽しいけれど、みんなでちゃんとお約束を守って、音楽に合わせて踊ってみると、とっても素敵なダンスになるのです。

 ひとりでやっても楽しいことはいっぱいあります。けれども、順番を守り、ちゃんと並んで、お約束を守ってスタート。「ひとりでやっても楽しいけれど、みんなでやるともっと楽しい」ことがいっぱいです。

 これが、運動会なのです。


 9月の初め頃には、ビデオカメラのコマーシャルがテレビでよく流れていました。

 小学生の女の子が台の上で大きな声で言います。
 「おとうさん、おかあさん、
  今日は、私達のがんばっている姿を
  ちゃんと撮ってほしい日です」

 芦田まなちゃんが出ているコマーシャルもありました。

 「子どもはみんな天才子役」

 撮影しているお父さんが思わず口から出す言葉は、
 「名作が撮れそう・・・」
 
 近頃のビデオカメラは、30倍40倍のズームが売り物です。手ぶれ防止機能付きで、ズームアップで撮っても、ぶれません。性能が良くなりました。カメラだっていっしょ。ズームと手ぶれ防止が売り物です。



 七尾幼稚園の運動会は、大きな広い小学校の運動場とは違って、コンパクトな園庭での運動会。40倍のズームはいらないかもしれませんが、やはりズーム機能は欠かせませんよね。


 

 そんなふうにカメラの性能が良くなっている事を思って、私は幼稚園の教師達にこんなふうに話します。

「お家の方々は、愛するわが子の顔を、ズームで撮っているのです。

 教師は、子どもたちがちゃんと並んでいるところ、きびきびと指示通りに動いているところ、そんなところをお見せしたくなります。きれいに並んだり、ちゃんと丸になったり、そして、一斉に右に、一斉に左に、一斉に上を向いているところをお見せしたくなります。一糸乱れぬ練習の成果が出るような、上手なダンスや、お約束通りのかけっこを、ちゃんとお見せしたくなります。
 だからついつい、全体の形が気になるのです。

 けれども、お家の人たちのカメラは、大好きなわが子のアップのお顔。
 ちゃんと並んでいるかどうかよりも、他のこと同じに出来ているかどうかよりも、アップの笑顔。それを狙ってのカメラです。
 大事なのは笑顔。それが記録として残ります。それを、それをお家に帰ってから、何度も何度も見てくださるのです。

 大事なのは、子どもたちの笑顔。子どもたちが楽しんでいるかどうか。そこが一番大事なのだと、忘れないでください。」

 園長先生から、七尾幼稚園の教師達へのメッセージです。


 だってそうでしょう。

 もしみんなと一緒にちゃんと並んでいても、お友達と一緒にダンスをしていても、笑顔がなかったらどうでしょう。楽しそうじゃなかったらどうでしょう。

 だって運動会は、
 「ひとりでやっても楽しいけれど、みんなでやるともっと楽しい」ことを味わうときなんです。


 お家の人たちや、周りの人たちに愛されて、守られていることを知る子どもたちが、「ひとりでやっても楽しいけれど、みんなでやるともっと楽しい」ことを良く知って、みんなと一緒にいる喜びを感じてくれたら、どんなに素敵でしょう。
 たとえ失敗しちゃっても、たとえ上手に出来なくても、みんなと一緒にいる喜びを感じでくれたら、どんなに素敵でしょう。


 そして、そんな子どもたちの最高の笑顔を、ドアップのカメラで撮っていただけたら、どんなに素敵でしょう。
 いえいえ、たとえお母さんから離れられなくても、みんなが一緒に楽しんでいるのを、お母さんにだっこされながら眺めることが出来れば、どんなに素敵でしょう。

 出来るか出来ないかよりも、笑顔が一番素敵な運動会だったら、とってもいいなぁって、園長先生は思っています。
 だから、はらはらドキドキしながら、今度の土曜日は晴れて欲しいなって、思っているのです。



(2012年10月4日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

トップ アイコン今月のトップページへもどる

直線上に配置