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「ごっこ遊びの集大成」



 副園長 釜土蘭子

   
 もうすぐおひなさまの会。子供達は、お家の方の前で、オペレッタ(劇)をするのを楽しみにしています。

 いえいえ、ご披露するのを楽しみにしているというのとはちょっと違うかもしれません。物語の世界に入ることそのものを楽しんでいるのです。

 園長先生が現われると突然「たべちゃうぞぉ」と近寄ってくる子がいます。小さなお体で「たべちゃうぞぉ」というのですから、全く怖くはありません。でも本人はとってもこわーい、トロルになったつもりで、園長先生を襲って?くるのです。

 くじびきコーナーでは、あたりやはずれの箱が空っぽになると、「空っぽにしてしまっては、あとの人におきのどく」という声が聞こえます。


 劇遊びの中で覚えたセリフを繰り返しながら楽しんでいるのです。

 そうかと思うと、妖精になっている子がいたり、乙姫様になっている子がいたり、エビダンスが始まったり・・・。おひなさまの会が近づいてくると、不思議な世界があちらこちらで繰り広げられていきます。




 一番大切なこと、それは物語を楽しんでいるかどうか、です。ダンスがそろっていなくても、セリフが小さな声でよく聞こえなくてもそんな事はまあいいのです。大事なのはみんなでお話を楽しんでいること。楽しんで演じていること。




 幼稚園時代の記憶というものは、多くの人にとってとびとびで、あいまいなものです。覚えているのは、よほど印象的だったエピソード。とっても楽しかったことか、とっても悲しかったこと。とっても嬉しかったことか、とってもつらかったこと。

 私にとって、幼稚園時代のとっても楽しかった思い出の一つが、発表会での劇遊びでした。といってもそのタイトルもちゃんと覚えていません。覚えているのは、歌った曲の一節と簡単なストーリーです。

「しょうぼうじどうしゃ、しょうぼうじどうしゃ、うまれたばかりのななごうしゃ♪」というのです。もっと長い歌の一部に違いないのですが、ここしか覚えていません。けれどこの部分だけを家でも毎日歌っていたのでしょう。私の母も、姉も、今でもここだけ歌えます。
 あいまいですが、覚えているストーリーはこんなものです。ある消防署に、生まれたばかり(新品)の消防車がきます。7号車です。でも7号車は小さい消防車。先輩の消防車(1号車から6号車)からは、身体が小さいことで馬鹿にされます。けれどもある日細い道を通らなくてはいけない所で火事が起こり、7号車が大活躍し、先輩の消防車が7号車の事を見直してくれて、めでたし、めでたし。

 7号車はいわば主役でした。先生が決めてくれた役で、おそらくは小さい頃から声が大きかったので主役に選ばれたのだと思います。小学校に併設されていた幼稚園で、劇は小学校の体育館でしましたので、ある程度大きな声が出る事が求められたのだと思います。

 「しょうぼうじどうしゃ、しょうぼうじどうしゃ・・・」と毎日毎日歌っていた楽しい記憶。その後も消防車を見ると、何号車かなと見ていたような気がします。細い道を見かけると、「ここは7号車の出番だな」と思っていたような気がします。今でも消防車を見ると、頭の中にあのメロディーがひびきます。心の中で、「がんばれ!消防車!」と思うのです。

もう一つ覚えている劇は、「ちびくろサンボ」です。これはナレーター。でもこのお話が大好きで、一人で何度も何度もよみました。特にトラが「ぐる・るるるるる・・」と回っている間とけてしまってバターになるところがお気に入りでした。今でも同じ場所をぐるぐる回っていると、「ばたー」になってしまうような気がします。幼稚園の子ども達が玄関をぐるぐる走っていると、「玄関を走っちゃいけません!」と言うよりも「バターになっちゃうぞ!」という方が好きです。

 

 子ども時代の劇あそびは、想像力を高めてくれます。
 空をとぶってどんなだろう?
 海の中ってどんなだろう?
 
想像するのは楽しいものです。

 
 ふだんの自分ではないものを演じるにも想像力は欠かせません。

 クマさんはどんなふうに歩くだろう?
 海賊はどんなふうに話すのだろう?


 たくさん想像します。いろんなイメージが広がっていきます。

 見たことのあるモノなら、写真や絵を見て考えます。

 見たことのないモノを想像するのはもっと楽しい。
 妖精ってどんなだろう?
 トロルってどんなだろう?
 竜宮城ってどんな所だろう?

 

 そもそも、子ども達は豊かな想像力を持っています。だっていつもいつも「ごっこ遊び」をしているのですから。

 
 おままごと道具を並べて、お家ごっこをしている子がいます。お母さんになりきって演じています。
 チラシをクルクル丸めた「剣」を持って戦いごっこをしている子がいます。ゴーカイジャーになって戦っています。

 箱積み木で、「迷路」を作って遊んでいる子がいます。
 秘密基地を作って楽しんでいる子がいます。 お店やさんごっこをしている子がいます。
 年長さんになってくると、お友だちと一緒に人形を作って、劇場を救って、「人形劇ごっこ」をする子もいます。


 自分の中にあるイメージをふくらませて、それをお友だちと共有して、ごっこ遊びを発展させていくのです。発展させていくためには、役割分担をしたり、下準備をしたり、しなくてはなりません。ごっこ遊びは実にたくさんの要素を含んでいます。
 幼児期にじっくり「ごっこ遊び」を楽しんで、人としての想像力を高めていきます。
 想像力は決してあり得ない話を考える力ではありません。イメージをふくらませる力は、実は日常の中で必要なものです。困っている人に手をさしのべたりできるのは、その人の気持ちを想像できるからに、他なりません。
 


 

 クラスのみんなでするオペレッタは、いわば「ごっこ遊びの集大成」です。

 クラス全員で物語を共有し、イメージをふくらませ、役割を分担して、演じていくのです。幼稚園で毎日のように楽しんできた「ごっこ遊び」。その上におひなさまの会のオペレッタがあります。ですから、うまく演じることよりも、物語を楽しんでいるか、が大事です。お友だちとイメージを共有しているか、が大切です。自分の役だけではなくて、お友だちの役割にも興味をもっているかが大切です。

 心から楽しんだことこそ、人としての成長を促します。

 
幼児期に心から楽しんでほしい、劇遊び。
 いっぱいいっぱい楽しんでほしい、オペレッタ。
 上手にできたかどうかではなく、楽しんでいるかどうかを見に来ていただければ、嬉しく思います。


(2012年2月23日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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