一〇月一四日のホールの時間、坂井先生が手にしていた携帯電話が鳴りました。 「もしもし、こんにちは。 ひさしぶり・・・。」 坂井先生の電話にひきこまれるように、注目する子供達。 「え?そうなの。わかった。ありがとう、おしえてくれて。じゃあ、またね。」 誰からのお電話かな?子供達はしーんとして坂井先生のお話を聞きます。 「あのね、先生のお友だちのリスさんからのお電話だったんだけど・・・。」 えー?坂井先生のお友だちのリスさん?どこかで聞いたことがあるような?大きいお友だちの中には、一年前にも「お友だちのリスさん」からドングリが届いた事を思い出す子も。 「リスさんが教えてくれたんだけど、幼稚園の駐車場の横の木にドングリがいっぱいできているんだって」 「えー!」 ビックリ!驚く子ども達。 「これからみんなで見にいく?」 ドキドキワクワク、大きいお友だちと小さいお友だちが手をつないで、駐車場へ。どれがドングリの木なのだろう?きょろきょろしながら歩いていきます。 「あった!」 ドングリが落ちているのを見つけます。上を見ると、木にドングリが実っています。 「ドングリってあそこにできてるんだ」 「あそこから落ちてきたんだね」 そんなことをお話ししながら、一人2個ずつのドングリを拾いました。 このドングリの木、二〇〇三年に、当時のAぐみさんと一緒に植樹したものでした。ようやくみんなで拾うことができるドングリができたのは本当に嬉しいことでした。 ドングリ拾いはとっても楽しい秋のお遊びです。「ドングリ」はそのままで簡単に食べられるものではありません。でも、採集本能が刺激されるなんだか宝物のような大事な品物です。何に使うとか、そんな事を考えて集めるわけではありません。「集める」ことが楽しいのです。 「ドングリ拾い」を子ども達にさせてあげたい。それはずっと前からの願いでした。いろんな公園にでかけては、ドングリを探しました。古墳公園、国分寺公園・・・。でもこれがなかなか難しい。幼稚園で子ども達が集団で行くには安全確保などの条件を満たしていなくてはいけません。道路に面している所とか、駐車場にある木というのはダメなのです。そして、ドングリがあるかと思って行ってもちょと時期がずれていたりします。タイミングを合わせようとして事前に見に行っても、たまたまこちらが行く直前に誰かが拾ってしまったりします。 そんな時、お家の庭に大きなドングリの木があるという保護者の方から、段ボール箱いっぱいのドングリをいただきました。それを見ながら園長先生がひらめいたお話が「魔法のりすさん」。 「あのね、魔法のリスさんがさっきお庭にやってきて、ドングリをいっぱいおいていったんだよ。」 「どこにいるの?」 「もうどこかにいっちゃったよ」 リスさんの姿は見えないけれどリスさんがおいていったドングリは見える。 「よーい、ドン」でお庭に飛び出してドングリを拾う。たったそれだけなのですが、子ども達は大喜び。もしかしてリスさんがどこかにいるのかな? 毎年毎年、「魔法のリスさん」がおいていくドングリを拾うのが秋の恒例になりました。 でも、魔法のリスさんは、桜の木の下にドングリを置いていくのです。確かに桜の木の下にドングリがあるから魔法なのですが・・・私も園長も桜の木の下でドングリを拾うのではなくて、本当のドングリの木の下でドングリ拾をさせてあげたいという思いがありました。 けれども、残念ながら幼稚園のお庭にドングリの木を植えるスペースはありません。 ところがそんな時に、公園整備事業の一環で、幼稚園に隣接する部分に木を植えませんかという話がありました。それならばと、4本の違うドングリの木を植えることをお願いししてみたのです。するとそれがすんなり認められて、当時の子どもたちと一緒の記念植樹となったのです。 最初は小さな小さな苗木でした。 残念ながら一本はうまく根付かずに一年後には枯れてしまいました。あとの3本はだんだん大きくなっていきました。 そして・・・。一緒に木を植えた子ども達が小学生になり、中学生になり、月日が過ぎていきました。 そしてある年、やっと数個のドングリが実りました。嬉しく思いましたが、まだまだ。その次の年、十数個のドングリができました。でも、まだまだ。 その間に、園長先生がお留守で他の先生が「魔法のリスさんごっこ」のお話しすることになりました。坂井先生がお話しすることになったら「お友だちのリスさん」になってしまいました。坂井先生にはなんだか、リスさんのお友だちがいても不思議ではない感じなので、「お友だちのリスさん」がドングリを運んでくるようになりました。 時にはどうしても天気の良い日がなくて、ホールの中でしたこともあるドングリ拾いごっこ。 今年はどうなるかな?夏の終わりに木の上を見上げると、なんだかたくさんできそうな感じ。これならみんなで一緒にドングリ拾いができるかも・・・。 でも待てよ。これをこのまま置いておいたらみんなで一緒にとる事はできないなぁ。誰かが気がついて一人で全部拾っちゃうかも。 「お友だちのリスさん」のお友だちの蘭子先生としては、みんなで拾ってこそのドングリ拾い。みんなが2個ずつ拾う事ができるドングリを確保すべく毎朝ドングリの木の下でこそこそ動いたのでした。 そして百五十個以上のドングリが集まった事をお友だちのリスさんに連絡して、お友だちのリスさんから坂井先生に連絡があって・・・ みんなで一緒のドングリ拾い。 「あった〜」 ドングリを見つけて、拾って、とっても嬉しそうな子ども達。ドングリの木の下で、みんなでドングリを拾う。長年の願いがかなってとっても嬉しかった瞬間でした。 その後は、ドングリごま、やじろべえ、ドングリネックレスと、様々な遊びが広がっていきます。ご家庭からもいろいろなドングリを届けていただいて、お楽しみは続いています。 そして、時にはなぜか、お庭の桜の木の下にドングリが落ちていることも・・・。なんで桜の木の下にドングリが落ちているの?とちょっぴり疑問に思いながらも、落ちているとつい楽しく拾ってしまう子ども達。それを見るのが楽しい、蘭子先生。 「また、お友だちのリスさんが持ってきてくれたんだね」。 ドングリの木の下でちゃんと拾った後だから、ちょっとファンタジーなドングリ拾いもおもしろがっていいかなと思う蘭子先生なのです 。 |