子どもたちが出会う初めての社会。小さな小さな社会で、保育者に守られている社会。それが幼稚園です。 子どもたちはそこでたくさんのことを学んでいます。 たとえば、社会ルールを学びます。順番ぬかしをしないことを学びます。お友達のものと、自分のものとの違いを学びます。みんなのもの、共有のものを学びます。「かして」と言えば貸してもらえる時があることを学びますし、「かして」と言っても、貸してもらえない時があることを学びます。社会ルールと出会う初めての社会こそ、幼稚園なのです。 たとえば、いろんなものをたたいてみると音が出ることを学びます。机も、コップも、カバンも、たたいてみると音が出ることを学びます。小さな隙間に息を吹き入れてみると、音が出ることを学びます。小さなカップの中に、ものを入れて振ってみると音が出ることを学びます。それをらを一定の間隔でならしてみると楽しいということを知るのです。音楽リズムは、幼稚園で学ぶ大事なテーマです。 夏に大流行したのはシャボン玉。ふくらんでふくらんで、いろんな色に包まれて・・・。大きさに挑戦する子もいれば、数の多さに挑戦する子もいます。上手に息を吹き入れないとふくらみません。身体を上手に使わないとシャボン玉は楽しくありません。身体の機能を知る。それが大事な学びです。 夏には「バケツぐるぐる」もはやりました。バケツの中に半分ぐらい水を入れて、そのままぐるりと一回転。これができるかどうかが、年長さん男子の誇り・・・?幼稚園の中で伝承される遊びです。けれどもそれはいつか、遠心力を学ぶときに大事な経験となるのです。 幼稚園で子どもたちは毎日遊んでいます。その遊びの中で子どもたちはたくさんのことを学んでいくのです。遊びを通して学ぶ「経験カリキュラム」。それが、幼稚園の学びのシステムとなっています。 運動会直前なので、運動会のお話もしたいのですが、その前に、ここしばらく、不思議な言葉をつぶやいている子どもたちが幼稚園の中に出没しています。そのお話を今日はいたしましょう。 教えた張本人はわたしなのですが・・・、お聞きになったことありますでしょうか? 「イネイナホモミガラゲンマイハクマイゴハンイタダキマス」 呪文のような不思議な言葉。ちょっとリズムもあって、調子よく唱えている子どもたちです。 最後のところが「イタダキマス」なので、何度もよく聞いていただければわかると思うのですが・・・、それでも想像たくましくしていただかなければわからないかもしれません。特に、Cぐみさんや、Dぐみさんの子どもたちがつぶやいているとすれば、なかなか理解するのは、難しいに違いないのです。 九月二十一日のホールの時間、去年一昨年とできなかった、「イネの話」を子供達の前でいたしました。 最初に葉や茎がついたイネを持ってホールに登場しました。 「これは、なぁんだ?」 少し考えて子どもたちはこう答えました。 「おこめ!」 「残念!これはお米とは言いません。 これは、なぁんだ?」 子どもたちは、首をひねりながら考えて、繰り返します。 「おこめ!」 「残念!これはお米とは言いません。 これは、なぁんだ?」 子どもたちがざわざわしながら相談しています。そしていろんな声が聞こえてきます。 「田んぼに生えてるやつ。」 「お米になるやつ。」 そんな中である子がいきなり、正解を言いました。 「いねだ!」 「そうです。これは、稲と言います。よく知っていたね。偉いです。 では、これは何んでしょう」。 そうやって、稲の先っぽ、稲から茎と葉っぱをとったものを示します。 「これは、なぁんだ?」 また、子どもたちがざわざわします。「稲の先っぽ」なって答える子がいましたが、正解を言えるわけではありません。 「これは、稲穂(いなほ)、です。」 続いて、稲穂の茎から一粒一粒を取り出して・・・なくなってモミ。 そのモミが、もみがらと玄米に分かれ、そして、玄米が白米になって・・と話していきます。 稲穂も、籾も、籾殻も、玄米も、白米も、ちゃんと現物を見せながら話は進んでいくのでした。 白米を見せるとみんなは、「お米!」と叫びます。知らない単語がたくさん出てきたけれど、ようやく知っているものに出会ったのです。 そこまできたら、当然出てくるものは決まっています。 白米の後は・・・炊飯ジャーの登場です。 ジャーをあけると、湯気があがり、炊きたての、おいしいにおいが周りに漂います。 思わずみんな、ゴックン。 子どもたちの目の前でおしゃもじを使ってごはんをまぜて、ご飯をお茶碗によそって、お箸を持って・・・ 「いただきま〜す!」 ここであえて一口食べました。 「おいしい!」 子供達は食べた事に反応して、ワーワーキャーキャー。「ダメー」という子もいます。「食べたーい」という声も聞こえます。 「ごはんは、おいしいね!」 みんな満足そうな笑顔です。 さぁ、これからが繰り返しです。一つ一つを指さしながら、 「いね、 いなほ、 もみ、 もみがら、 げんまい、 はくまい、 ごはん、 いただきまーす」 一定のリズムを保ちながら、何度も何度も言います。 最後にぱくんと食べたり、食べるマネをしたり・・・。小さいお友達はそちらが気になってずっと注目しています。 そのうちに子どもたちも一緒に言うようになります。 「いね、 いなほ、 もみ、 もみがら、 げんまい、 はくまい、 ごはん、 いただきまーす」 何度も何度も繰り返すのです。見たことはあるけれど、名前を知らないものがある。「へぇ、これにはそんな名前があったんだ・・・」。幼稚園で学ぶ大切なことの一つです。 単語を覚えてくれればうれしいのですが、興味のない子は当然います。まだ、そんな難しい単語を知らなくてもよい子はもっとたくさんいます。 だから、暗記することが目的ではありません。子供達の頭の中に、お米のイメージが広がってくれればいいのです。七尾に住んでいれば、秋になれば何度でも田んぼを見ることができます。田んぼの中にあるイネ、それがどうなってごはんになるのだろう。なんとなくわかってくれればいいなと思います。 けれど、Aぐみさんになったなら、ちょっと難しいこれらの単語も、覚えてほしいなぁと思うのです。 お話した後は、玄関にしばらく置いておきました。稲も、稲穂も、籾も、籾殻も、玄米も、白米も、指をさしながら、繰り返す子がいます。 「いね、 いなほ、 もみ、 もみがら、 げんまい、 はくまい、 ごはん、 いただきまーす」 お友達と一緒に、楽しそうに笑いながら大きな声で何度も言う子がいます。 そのうちに、それぞれをさわってみる子が出てきます。さわってみて、それぞれがどう違うか、を確認していくのです。 「いね、 いなほ、 もみ、 もみがら、 げんまい、 はくまい、 ごはん、 いただきまーす」 お昼ごはんの時に、また思い出す呪文のようなこの言葉。その不思議な言葉の中に、遊びの中で学んでいる、興味津々な子どもたちの生活があるのです。 |