直線上に配置

「大事なのは 基礎」


 園長 釜土達雄

  8月2日からですから、ずいぶんと長い間ご不便をおかけしています。七尾教会の礼拝堂建築のため、幼稚園が駐車場として使用していた教会駐車場が使えなくなっています。また、教会駐車場から礼拝堂の前を通って幼稚園に行くという、とっても便利な通園コースも使えません。
 行事の時も、とっても不便でした。夏の夕涼み会の時にも、運動会の時にも、おもちつき大会の時にも、ご不便をおかけいたしました。これから冬に向かい、行事はまだまだ続きます。特にクリスマス会の時には、今まで以上にご不便をおかけします。あとしばらくお待ちください。

 そもそもこの工事は、2007年3月25日に起こった能登半島地震からの復興工事です。

 1961年に建てられた七尾教会礼拝堂は、幼稚園の台所と、2階の集会室を一体型建物として建てました。そこに、木造の幼稚園がくっついて建っていました。
 1990年に、七尾幼稚園は改築されます。幼稚園が改築された時、幼稚園は2階の教会集会室と1階の教会台所を幼稚園の施設として寄贈を受けました。改築後の使い勝手の関係で、教会の理解を得てそのようにしたのです。所有者は違うことになりましたが、構造上、寄贈を受けた建物が、教会の礼拝堂と一体であることに変わりはありません。
 それらのすべての建物が、2007年の能登半島地震を受けたのです。

 1990年に建てられた幼稚園の建物は、構造上の被害はありませんでした。新しい耐震基準で建てられていましたから、震度6強の地震にも十分に耐えることができました。Dぐみさんのお部屋から道路側のホールの端っこまでの距離で、高低差が1ミリと、建築当時と全く変わらない誤差。基礎がしっかりしていたので、地震には十分に耐えてくれたのです。
 もっとも、鉄骨造の建物は建物全体が揺れることで地震の力を受け流す構造。ですから、外壁にヒビが入るのは致し方のないことでした。地震の後はその補修工事をしなければなりませんでしたが、それさえ終われば何の問題もなく使い続けることができました。

 



 ところが、1961年に建てられた七尾教会礼拝堂と幼稚園の集会室、そして台所は違いました。地震によって深刻な被害を受けてしまいました。「当分の間使うことには問題はないが、基礎部分と壁面に深刻なダメージがあり、早急に建て直すことが必要」と診断されたのでした。
 これにすぐに反応してくださったのが、キリスト教会の地区や教区の諸教会でした。「日本基督教団中部教区 能登半島地震被災教会再建委員会」を立ち上げてくださり、支援体制を通ってくださいました。その後日本キリスト教団の中に「「能登半島地震」被災教会会堂等再建支援委員会」が設置され、募金目標が決定。本格的な復興支援が始まったのです。全国連合長老会や改革長老教会協議会のみなさまの献金も加わり、七尾教会と七尾幼稚園の再建計画が始まったのでした。
 1990年建築部分の七尾幼稚園の震災復興工事は早く、地震のあった同じ年の2007年の9月には、その復興工事は終わりました。外壁のヒビやシート防水の破れは、比較的短期間の工事で終わる改修工事でした。
 それに対して、今回の工事は建て替え工事です。基礎と外壁、特に基礎部分に深刻な被害を受けていることがわかったので建て直すことになった工事です。基礎からやり直す工事だったのです。

 工事開始は8月2日でした。完成予定は2月末です。鉄骨の建て方は10月27日でした。解体工事の期間はありましたが、基礎関係工事に3ヶ月を要しました。いえいえ、それから鉄骨をきちんと建てて、土間と基礎を一体にするためのコンクリートを打ったのが11月13日。これも基礎に加えれば、7ヶ月の工期の内、約半分の3ヶ月半も基礎工事に費やされたのです。


 パイルドライバーという機械を使って、地中深くにある固い岩盤まで棒状のコンクリートを作る作業をします。くい打ちと呼ばれる工事で、出来上がった建物が沈まないようにする工事です。平屋なら平屋、2階建てなら2階建て。基礎によって、建物の高さが決まります。
 棒状のコンクリートの上に、コンクリートを打ち、鉄骨を乗せる台を作ります。鉄筋を張り、鉄骨を乗せる台と台をつなぎます。鉄骨自体もコンクリートの基礎の中に入るようにし、一体としてつなぎ合わせます。床も基礎の一部として大きくつなぎ合わせます。前にも横にも動かないように、前後を固めます。基礎によって、建物の平面の大きさが決まります。

 基礎は大事です。基礎がちゃんとできていないと、あのような地震に耐えることはできません。
 基礎は大事です。基礎がちゃんとできていないと、建物の大きさが決められません。
 本当に基礎は大事です。目に見えるのは地上の建物ですが、目に見える地上の建物を支えているのは、基礎なのです。だから、基礎にはたっぷりと時間をかけなければならないのです。



 幼稚園の子どもたちは毎日遊んでいます。遊んで遊んで大きくなります。遊びこそ、幼稚園の子どもたちの生活です。
 けれども幼稚園の子どもたちの遊びは、大人の遊びとは違います。リフレッシュするための遊びでもなければ、趣味の遊びでもありません。幼稚園の子どもたちの遊びは、遊びそのものが生活です。遊びの中でたくさんのことを学ぶのです。

 ボールをころころ転がして遊んでいます。遊びの中で、丸いものが転がることを学んでいます。
 輪ゴムを引っ張っています。引っ張ったり縮めたり。時には失敗してパチン。痛い思いをして泣いたりします。ゴムが伸びたり縮んだりすることを学んでいます。
 ところが、ヒモは伸びたり縮んだりしません。不思議な顔をして、考えています。輪ゴムとヒモは違うことを学んでいるのです。
 セロハンテープを使って、紙と紙をくっつけています。セロハンテープを使って椅子と椅子をくっつけています。セロハンテープを使って椅子と机をくっつけています。いたずらをしているのではありません。くっつくことを喜んで、確認しています。
 のりを使っても紙がくっつくことを知りました。のりを使って椅子と椅子をくっつけようとします。のりを使って、椅子と机をくっつけようとします。うまくはいきません。考えています。
 そうそう、いたずらではありません。試してみたい実験です。でも先生に叱られました。どうものりを使って椅子と机はくっつけちゃいけないみたいです。

 幼稚園のおもちゃは少なくて、みんなで使わないといけません。お友だちが使ってっているおもちゃをい使うためには、「かして」と言わなければなりません。「いいよ」のお声が帰ってこないと使ってはいけません。
 でも使っていたお友だちがよそ見をしました。今なら「かして」と言わなくても使えそう。だから、こっそりとって、使い始めました。お友だちがびっくりして、「これボクが使っていた」と言います。けんかが始まります。そうそう、みんなで使うものには、使うためのルールがあります。先生のお話をよく聞いて、ちゃんと「かして」「いいよ」のお約束を思い出します。けんかの時こそ、大事なルールを確認する宝の時間です。

 幼稚園ではお金ごっこの季節がやってきました。「お買い物」に幼稚園のお金が大活躍です。「くじ引き」をするためにも、幼稚園のお金が必要です。幼稚園のお金を巡っての、様々なトラブルが発生します。そのすべてが、子供たちの大切な学びの場所なのです。

 人間が人間になるための大切な時間。それが幼稚園時代。そして小学生時代。
 知識を得ることはもちろん大事だけれど、それ以上に、いろんな自然現象を体験しておくことは、とっても大事です。そして、人が人として、人と共に生きていく知恵を身につけることはもっともっと大事です。

 基礎は大事です。基礎がちゃんとできていないと、大きさが決められません。
 本当に基礎は大事です。基礎がちゃんとしていないと広さが決められません。
 目に見えるの部分は、基礎によって決まります。目に見える所を支えているのは、基礎なのです。だから、基礎にはたっぷりと時間をかけなければならないのです。

 地震が起こってもびくともしないように、建物だって基礎を大事にします。
 人間も同じ。人が人として生きていくための基礎は、何よりも不可欠です。
 遊びの中で学ぶ幼稚園や小学校の時代こそ、宝の時間です。

 長くかかる工事を眺めながら、「うん、基礎が大事なんだ」と、自分を納得させて思います。基礎さえでちゃんとできていれば、あとは何とかなる。そう思います。
 

(2010年11月30日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

トップ アイコン今月のトップページへもどる

直線上に配置