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「あたりまえの事を

 あたりまえにするために」


 副園長 釜土蘭子

 6月初旬、ご家庭から「アゲハの幼虫」が届けられました。聞くところによると、そのご家庭にあったゆずの若木についていたもので、その葉っぱをみんな食べてしまったとの事でした。

 さあ、大変。アゲハの幼虫は、最初に食べたものしか食べません。ゆずの葉を食べた幼虫は、ゆずの葉を食べて大きくなるのです。自然界では、若い小さな木に産み付けられた卵からかえった幼虫は、食べ尽くした後、次の木を求めてさまようことになります。

 幼虫としてはラッキーな事に幼稚園にやってきました。そこで始まったのは、蘭子先生の「ゆずの葉探し」です。ブログで急募!したところ、いろんな方からお声をかけていただき、途切れることなくゆずの葉が届けられました。
しかも、そのゆずの葉にはまた新たな幼虫や卵が含まれていて、たくさんの幼虫を飼育する機会に恵まれたのでした。


 アゲハの幼虫は最初は黒い小さいものです。それが脱皮して、よく知られている黄緑色の幼虫になります。たくさんいるので、よく見ていると、その脱皮した抜け殻のようなものを見ることができました。
 幼虫の飼育ケースは、毎日黒いフンでいっぱいです。でもそのフンも最初は小さい小さいもの、幼虫の成長と共にフンのサイズも大きくなっていきます。
 「ウンチ、大きくなった!」
 これは子供達にとって大発見。じっと観察していると幼虫がウンチを出す瞬間も見られます。

 「ウンチ、した!」
 大きな声で報告してくれます。

 「葉っぱ食べてる!」
 むしゃむしゃと葉っぱを食べる姿をじっと観察するのもおもしろいものです。口の形がどんなふうに変わるか。葉っぱのどんなところから食べていくか。

 
 飼育担当の蘭子先生は、毎日ゆずのとげとげにさされながらの、幼虫のお世話となりました。けれど数が多いというのはありがたいことです。一匹か2匹だと「失敗できない」というプレッシャーから大事に大事にと思うのですが、これだけいれば少々冒険しても大丈夫。ゆずの葉にくっついた幼虫を子供達の顔の前に出してみたりというイタズラもできました。ケースの中ではなくて、目のすぐ前で見るとまた違った発見があります。

 そして一匹目がサナギになりました。この一匹目は上手にゆずの茎につながってサナギになってくれました。幼虫が変化してサナギにいくのだというのをよく見ることができました。また糸のようなもので自分を支えているのも発見。



 この段階で園長先生にホールの時間に登場していただきました。

 「あおむしが
   さなぎになって
    ちょうちょになるよ」

 ということをお話ししてもらう為です。
 
 静かにお話しするのではありません。独特の節回し?メロディー?がつき、フリがついています。
 考えに考えてできたものではなく、ある日子供達と話していたら、そうなってしまったものです。そして毎年やっていくうちにどんどん磨かれていったのでした。

 「あおむしが 
   さなぎになって
    ちょうちょになるよ」

 アオムシのように腕を動かし、一度はサナギのようにピタッと止まり、その後ジャンプしてチョウチョを表現する。それを何度も何度も繰り返します。

 「あおむしが
   さなぎになって
     ちょうちょになるよ」

 何度も何度も声に出してみます。
 そしてその変化を知識として自分のものにするのです。

 数日後、一匹目のチョウチョが誕生しました。残念ながら蘭子先生は出てくる瞬間に出会うことはできなかったのですが・・・。カラになったサナギの横にチョウチョがとまっている姿を撮る事ができました。

 サナギは最初はきれいな緑色です。動かないで変化がないようですが、色は徐々に変わっていきます。黄緑色が少しずつくすんでいって、黒みがかってきて、最後にはチョウチョの羽の模様がかすかに見えてきます。するとその日かその翌日がいよいよチョウチョとしての誕生の時です。
 動かないサナギもよく見ているとちょっとだけ動きます。いよいよチョウチョになるその日には、そのかすかな動きがよりわかりやすい動きになります。

 「サナギが動いた!」
 
 これも大発見。

 チョウチョはみんなでお空にバイバイしました。まだ羽の力が弱くすぐにはとんでいけませんでした。

 一匹が旅立った後にもまだまだたくさんのサナギがいて、幼虫もいます。何度も何度も「チョウチョさんバイバイ」を繰り返すことになるでしょう。そして、その時には一匹目のような興奮はありません。
 「アオムシが、さなぎになって、チョウチョになる」、それが当たり前になっていくのです。







 今年はカエルの卵とオタマジャクシもたくさんいただきました。AぐみさんとBぐみさんはおへやでも観察・飼育をしました。
 前足から出るのか後ろ足から出るのか、最初の頃は興味津々で見ています。
 最初に足がはえたものを見つけた子は、大声でみんなに知らせます。
「足でてる!」
 先生達にも大変だとばかりに「せんせー、足でとるよ」と報告に来ます。

 何匹も後ろ足が出たオタマジャクシを見て、「後ろ足から出る」事を理解します。そして前足が出て、しっぽがなくなっていってカエルになります。
 カエルになったらお庭に放します。最初の頃は大興奮です。「ボクしたい!」「見えない」・・・放す現場は大騒ぎ。カエルくんにとっては迷惑な話です。
 けれどこれも何匹もするうちに当たり前になってきます。「足が出てる」ことを報告しに来る子はいなくなります。「ちょっと放してきて」というと「はーい」。たいしてもめることもなくお庭の隅に「バイバイ、元気でね」の声が聞こえます。
オタマジャクシがカエルになるのが当たりまえになっていくのです。


 幼稚園は、当たり前のことを当たり前のように教えるところです。「アオムシがさなぎになって、チョウチョになる」、当たり前のことです。けれどそれを図鑑で見たり、言葉だけで教えられるのでは、さびしいではありませんか。目でみて、体で表現して、自分のものにしていくのが幼児期でなくてはいけません。


 七夕飾りを作る時には、折り紙を折ったり切ったりします。こんなふうに折ったら星になるんだ、ここを切ったらこんな模様になるんだ、子供達は驚き、感動しながら作っています。そして、それも何度もやって当たり前になっていったらいいと思います。

 当たり前だけど、不思議な楽しい世界。玄関では、カブトムシのサナギが登場の時を待っています。今年の夏も子供達と共に、たくさんの不思議な当たり前を経験していきたいと思います。
(2010年6月30日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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