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「人は できないものを見つけることで、
  できることを見つける」


 副園長  釜土蘭子

 何気なくみたコンビニの本棚に、「一瞬で心が前向きになる賢者のことば」という文庫本を見つけました。

 開いてみると、一番最初に出ていた名言が「人はできないものを見つけることで
 できるものを見つける」という言葉でした。

 この一言が気に入って、私はこの本を購入してしまいました。つい最近、中学生の女の子とした会話を思い出したからでした。

 「人はできないものを見つけることで
 できるものを見つける」

 教会学校にやってきた時にちょっと時間があって、宿題らしい問題集を広げたその子は、しばらく面倒くさそうに答えを書いた後、真顔で私に「なんで数学なんてしなきゃいけないの?」と聞いてきたのです。多分数学はあまり得意ではない彼女は、それでも宿題だからと一生懸命問題集に取り組んでいました。それを横目に見ていた私に、彼女が聞いてきたのが、「なんでしなきゃいけないの?」という言葉でした。

 「だって、こんなの役にたたないでしょ?」と言いたげな彼女に、私が話したのは、こんなことです。

 正直に、現在の蘭子先生の仕事では数学は使わないということ。苦手だったから、高校生になったらあんまり数学はしなくなって、大学にいったら全然しなくて、社会人になったら全く関係なくなっちゃった事。
 「ほらね」という顔の彼女に、私はこう続けたのです。
 「でもね、中学生の頃はとりあえずやってみた方がいいよ。だって、やってみないと何が苦手なのか、何が嫌いなのかわからないでしょ。いろんな事をやってみて、初めて自分がやりたいこと、得意な事がわかるんだよ。大人になる前に、自分で仕事をする前にいろんな事を一生懸命やってみて、本当に自分がしたいことに気づく事が大切なんだよ。」

 けっこう本音で話してみたのですが、どこまで通じたかな・・・。
 
 これは彼女だけでなく、中学生や高校生となった卒業生によく聞かれる事です。
「なんでこんな勉強しなきゃいけないの?」
 そのたびに考えます。頭ごなしに「べんきょうしなさい!」というのもイヤだし、自分は何でもできるというのはヘンだし、どんな事でも役に立つというのは嘘だし・・・。
 何度も、いろんな卒業生と語ってみて、正直に思っているのが、「がんばってやってみないと本当に苦手な事はわからないよ」という事です。中学生にはそう話して、まず嫌がらずにどんな事にもチャレンジして欲しいなと思っています。
 
 高校生達には、チャレンジした結果、自分が見えてきて、進むべき道を決めたらいいと話したいと思っています。


 自分が何ができて、何ができないのか。それがわかる事が大人としてとても大切なことなんだよ、卒業生たちにそう語ってきたつもりだったのですが、なかなか一言でうまく言い表せなかったのです。


 そこで出会ったこの一言。

 「人はできないものを見つけることで、
  できるものを見つける」

 今度、中学生と話しするチャンスがあったら、この言葉を教えてあげようと思ったのでした。



 けれど、幼稚園の子供達はそのもっともっと前にいます。

 子供達はなんでもできる気持ちでいます。
何にでもなれる気持ちでいます。

 七夕の願い事。そこには子供の特権とも言うべきステキな願い事に満ちています。

 「シンケンジャーになりたい!」
 「ウルトラマンになりたい!」

 そんなもの、なれるわけないじゃないなんて思いもしません。

 「野球選手になりたい」

 そこまでいくのは大変だよ、なんて考えてはいません。

 「ピアノが上手になりたい」

 それなら練習しなきゃね、なんて現実的に考えているわけではありません。

 「魔法を使える人になりたい」

 そんなことできるわけないでしょ!なんて言ってはなりません。


 幼稚園の子供達は、可能性でいっぱいです。昨日より今日、今日よりも明日の方ができることが増えると信じて疑いません。それが子供の特権でなくてはいけないのです。

 実際、幼稚園の毎日は、「できるようになった!」という喜びに満ちています。 
 ブロックを組み合わせることができるようになった。積み木を何個もつめるようになった。歌を覚えて歌えるようになった。鉄棒ができるようになった。

 砂場でもいろんな「できた」があります。大きな山が作れるようになった。トンネルが掘れるようになった。きれいなケーキができた。泥だんごを作ることができた。

 ダンゴムシを捕まえる事ができた。チョウチョを見つけることができた。そのチョウチョがなんている名前かを知っている。何を食べるかをお話できる。子供達の「できた」はどんどん進化していきます。

 食べられなかった野菜が食べられるようになった、なんていうのも大事な「できた!」です。

 
「できた」をたくさんたくさん重ねていく事で、また次に挑戦しようという気持ちが生まれるのが、幼児期の子供達です。

 だから「せんせー、できた!」の言葉をとても大切にしていかなくてはなりません。
 「すごいなぁ」「がんばったね」、一生懸命認めてあげなくてはいけません。決してそんなことできて当たり前じゃないのと注目してあげなかったら、その子は「できた」を重ねていくことはできないのです。
 そして、「せんせー、できた!」を言ってもらえるような教師と園児の関係でなくてはいかないのです。
 

 夏は、なんだかいろんな事にチャレンジしたい季節です。

 子供達の「できた!」を大切にしてあげたいと思います。そしていろんな事をやってみようという気持ちを育ててあげたいと思います。「できない」と思う事より「できた」が多くなるように、「これをやってごらん」という語りかけをしてあげたいのです。その子がちょっとがんばったらできることを、ちょっと後押しする、そんなことができたらなと思います。そして何より自分から「やってみたい」と思ってチャレンジする毎日を過ごしてほしいと思います。誰かから言われてできたとしても、それは本当の「できた!」という達成感にはならないからです。

 幼稚園の中のたくさんの「できた!」。それがいつか、彼らが大人になる階段をあがるときに「できないものを見つけることで、できるものを見つける」為の基礎となってくれたらいいと願うのです。
 

(2009年7月21日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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